何時か我々の先祖は海から生まれた。
広い大海原でヒレを懸命に動かし前へ進む。
水掻きで必死に水を操って道を作る。
かつてはこの大きな手にも水掻きがあったのだろう。指と指の隙間をサイドランプに透かしながらそんなことをふと考えた。





「……あ、」

そんな指と指の下からか弱く甘い声が漏れた。どうやらもう片方の手が彼女の敏感な部分を掠めたらしい。
俺の片手は愛しい恋人の服の中を泳ぎ回る。勝手に手に意識があるかのようにどんどん彼女を攻め立てた。
俺はもう一度サイドランプに手を透かす。そしてその手も彼女の体へと滑って行った。





繰り返すキスの合間に彼女は涙目で懸命に訴える。

『酸素が欲しい。』

しかし俺はクスッと小さく笑っただけで更に唇を押し付けて隙間を埋めた。

『俺は***が欲しい。』

くん、と彼女は喉を鳴らして息を飲み込んだ。意地悪と言わんばかりに瞳を目一杯にきつく閉じる。
そこから零れた涙を唇で掬い上げて彼女に束の間の呼吸の時間を与えた。
小さな肩が大きく揺れて懸命に酸素を求める。そんな酸素でさえ嫉妬してしまいそうで、それくらい俺を求めて欲しいと言わんばかりに再び彼女の唇を塞いだ。

いつから人は陸上の空気を必要とするようになったのだろう。これでは唇を塞いだままでいられないではないか。





酸素に嫉妬した俺の胸にポッと熱い火が点る。今夜は穏やかに過ごす予定だったが、予想外のようだ。
人と人が最大限に隙間なく触れ合っていたくなる。急速に俺の気持ちと手の動きは高ぶった。それを見上げる***の瞳が妖しく潤いを帯びて見上げる。
彼女の俺を煽る悪い癖だ。もうそんな目で見つめられたら理性など弾けてしまう。

彼女の前では本能に戻ってしまう。かつては海の中にいた先祖のように本能だけで彼女に反応するのだ。





わかるだろう、***?





「ああっ!……皐月さ……。」

性急に追い立てる己を気持ちのまま彼女にぶつける。それに着いて来ようと彼女は俺の首に腕を回した。懸命にしがみ付いて離れまいとする。
ぐっとさらに深まる彼女との繋がりに頭の中がショートしそうな大きな波に襲われる。

ああ、まだだ。まだ攫われるな。
俺が波に攫われてくれるな。

「皐月さんっ……!」
「***っ……!」

二人の声が重なって先に攫われたのは彼女の方だった。閉じられた瞳から零れた涙は塩辛い海の味がした。





俺を波にたとえるならば、彼女はその波に合わせて波と上手く融合して泳ぎ舞う人魚だ。
どんな小さな波でも、時として嵐のように荒れた波でも彼女は必死でその中を泳ぎ着いて来る。

波から打ち上げられた後の人魚はとても幸せそうに円らな瞳を穏やかに閉じて眠りに落ちる。
さざ波に見守られながら、また舞うまでの休息だ。





「すう……、すう……。」

俺の腕の中で眠る小さな人魚。かつては纏っていたはずの鱗も今は白磁のように滑らかで肌理細やかな肌だ。
そんな柔肌にそっと触れていつかたゆたっていたはずの優しい海のように優しさが浸る空気を感じる。
海の中では感じることが出来なかった温度は今ではこうして感じる事が出来る。

冷たいシーツに体を戻し、眠りに落ちた人魚姫を腕に抱き締めた。





ヌード・マーメイド

(決して誰にも譲らない彼女の人の姿。)







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