何故トライアングルなんかになってしまったのだろう。
角の鋭利な関係は誰かを傷付けるだけだ。

何故元々一つであった存在が二つに別ち合い生まれて来たのだろう。
元々が同じなのだから別れた二人に惹かれてしまうのも仕方がないのだ頭を納得させる。

でも私はただ、穏やかにたった一人を愛したかったのに……。





『なんで一つになって生まれて来てくれなかったの!?』

私は雅季くんと雅弥くんの二人から同時に告白された時に咄嗟に泣き叫びながら口にしてしまった。
言ってはならぬ一言を。

雅季くんは斜め下に目線を落とし、雅弥くんはわなわなと拳を震わせていた。
反応は違くとも思っていることはきっと同じだったはずだ。

『そんなこと自分たちが一番解っている』
『だからこそお互いを意識せざるを得なく、だけれど元々一つであった存在が同じ女を好きになるのは仕方がない』





苦渋に唇を噛み締める彼らを見つめながら私の涙はただただはらはらと頬を滑落していくだけであった。
この両の腕に一人ずつ抱けたらどんなに幸せだろうか。どんなに満たされるだろうか。
しかし私は一人でしかいなくて共有物ではない。

私のこの腕が彼らのどちらかを選ぶと言うことはどちらかを失うと言うこと。





選べる訳がない。
どちらも失うことの出来ない存在なのだから。

私はそのまま二人から視線を外し、その場に泣き崩れた。嗚咽にすらならぬ声が喉を締め付ける。
体の奥からの震えが振動となり肌は冷たくなってゆく。





どちらかを選べだなんて私にどうしろと言うの?
張り裂ける胸に、己に、彼らに問う。





そんな私を見兼ねた二人が声を揃えて静かに呟く。
似通った二つの、でも聞き分けることの出来てしまう声が重なり、私の鼓膜は痛くなる。

「「4月19日中に来て欲しい所がある。」」
「僕は高等部の図書館へ来て欲しい。」
「俺はサッカーグラウンドへ来て欲しい。」

私の体は更に震えた。選択を迫られている。どちらかを選び、どちらかを失うことを迫られている。
キィンと痛く響く耳鳴りで外界との繋がりを遮断されてゆく。
指先の感覚が失われてゆく。





「「来るまでずっと待ってるから……。」」

そう哀しさを纏い重なった声は私だけを残し、消えて行った。
酷な問いを残して二人は消えた。





私はどのくらいその場に留まっていたのだろうか。
真っ暗闇であった空気に白い光が混じり始めたのに気が付いた。
頭の中は空っぽだ。心の中も空っぽだ。涙はさえももう流れなくなって頬にその跡がこびり付いていた。

そしてその光の筋の向こうを見つめて疲れ切った体を起こす。

私が出すべき応えは――。
私が決めた応えは――。
両方手に入らないのならば――。
どちらかを失ってしまうくらいならば――。





4月19日、二人が指定した日にちとそれぞれの場所。
私は靴を履き、既に家を出たと思われる二人の後を追うように外へと飛び出した。
彼らが私を待っている。待ってくれている。

そして私が出した応えは――。





二人は同時に腕時計を見た。
刻は既に19日を過ぎ、新たな日付へと変わっていた。
その場に沈み込むようにしゃがみ込む彼らを同じ月が見つめていた。
彼女は現れなかった。アイツの方を選んだのだろうかと交錯しあう同じ考えが絶望へと変わってゆく。

それが破れるような痛みとなり二人の芯を刺激した。
この感覚は自分だけのものではない。

――まさか、まさか……。

脈が心臓に針を突き刺されたようにドクドクと警戒音として身体中を駆け巡る。
二人はお互いの場所へと向かった。
途中で鉢合わせた同じ顔をした自分が目の前に現れる。





「……お前もか?」
「……お前もな。」

静かに見下ろす月を見上げて二人は彼女の出した応えを知る。
そしてどちらからともなく肩と肩を預け合った。
――何時かは一つだった二人……。





選べないと言うことは責任を他に転嫁することが出来る。しかし彼女はそうはしなかった。
二人に責任を譲らなかった。

敢えて「選ばない」と言う己の意思にて動いた。
きっと抱えきれないくらいの張り裂けた痛みを抱えて、独りになることを選んだ。





トライアングルが孤となりバラバラになった時、また歯車は容赦なく動き出す。
しかし次こそはトライアングルではなく孤が弧を描ける綺麗な歯車が動くといい。

彼女と彼等はそう願いながら、また今日も歩いていく。







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