今日も彼女は喧しい。
「でね、今日は皆で……」
よくもまあ、喋るネタが尽きないもんだ。延々一人で喋り続ける志乃を見ながら、俺は何本目かの煙草に火を点けた。
姦しいとは上手く言ったものだと思う。一人でもこれだけ喧しいのに、女が集まると到底口なんか挟める筈もないから。
「初めて食べたんですけど、とっても美味しかったんです! だから……」
志乃はとても嬉しそうに話し続けている。
正直話の中身には興味は薄い。コロコロ変化する志乃の顔を観察する方が余程興味深いから。
だが、そろそろ……
「柊さん? 聞いてます?」
志乃が俺の顔をのぞき込んできた。俺はまださして吸っていない煙草を灰皿に押しつけると、ちょいちょいと指で差し招いた。さらに近づく志乃の顔。
「柊さ……」
志乃がまた何か言い出す前に、俺は志乃に口づけた。
最初は軽く、そして深く。突然のキスに目を丸くしていた志乃が俺を受け入れ瞳を閉じた。延々キスをして唇を離した時には、志乃の目尻に涙が浮かんでいた。
「……煩い口は塞いでしまうに限るな」
「……え……?」
「喋る志乃を見るのは嫌いじゃないが、今は俺に酔っている志乃を見る方がいい」
「それって……」
また何か言おうとした志乃にキス。
「キスされたいから喋るのか?
……まあ喋らなくてもキスを止めるつもりはないがな」
仕方がない。キスが止まらなくなったんだ。
お仕置きのつもりのキスに、囚われたのは俺の方だ。
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