にゃーと鳴く君。






しっとりと汗ばんだ肌同士が、吸い付くように離れない。
心地よい疲れ。
あんなにお互いを求めたばかりなのに、まだ離れたくないなんて…。
体温と呼吸が溶け合って徐々に落ち着いてゆく。



そんな中。喉だけが熱かった。



薄暗い俺の部屋。灯りの下では真っ赤な俺のベッドもこの暗闇では重々しい真っ黒さだった。
でも、カーテンの隙間から窓を覗くと。外には後少しで満月になる月が俺たちを煌々と照らしながら見ていた。





『にゃー。』

猫が鳴いた。

『みゃー。』

あれ?今日は2匹いるのかな。もしかしたら俺たちのように恋人同士なのかもしれない。月の下の散歩ってわけか。



「…猫たちもラブラブだね〜。」

俺が腕の中にいる彼女にそう言うと、

「……えっ……?」

目を擦りながらゆっくりと彼女は目を開けた。

「あれ?ゆきちゃん、もしかして寝てた?」

「…ん、ううん…。寝てない。」



もう俺の猫は嘘が下手。そのばればれな嘘が意地らしくてとても可愛くなってしまう。
でもね、俺に悪いと思っているのかもしれないけど、別にいいんだよ?そのままの君で。



「…猫が…どうしたの?」

ごろんと。彼女は寝返ると俺の方を向いた。

「ううん。さっきのゆきちゃんの鳴き声、可愛かったねって言ったの。」

「…っ!」

バサッ!
いきなり視界から君が消えて何かに遮られたかと思ったら。顔には掛け布団。照れた顔を見られたくないときの彼女の対処法。

「…もう、そういうこと思っても口に出さないで…。」

塞がる耳の向こうから聞こえてくる彼女の照れて怒った声。
きっと真っ赤にしてそっぽ向いてるに決まってる。可愛くて堪らない。

俺はゆっくりと布団から顔を出すと俺に背を向けている彼女の細い体を後ろから両手で包んだ。

「捕まえた。ごめん、怒ってる?」

耳元で囁く俺の声にゆきちゃんの体はビクンッと揺れる。
君が好きだと言ってくれたこの声で。君の弱い耳に囁けば。
ほら。
背中に鳥肌があっという間。

俺を感じてくれているかと思うともうこの腕に閉じ込めて離してしまいたくなってしまうよ…。
それは自由きままな君にとったら罪なのかな?
でもたとえ罪人になろうとも、もう君の言うこと聞いてあげられないくらいに俺は君に狂わされてる。



そのとき、ゆきちゃんを見ると。とろんと目がしていた。必死で眠いのを我慢している。
も〜う強がりなんだから。そういうのに男が弱いっていうの知っててやってる?



「ほら、ゆきちゃん。」

俺は彼女の首の下に腕を差し込むと、その手で彼女の肩を抱く。最高の至福のとき。そのまま俺も目を閉じた。

しかし。遠慮気味に最初は自分の頭を俺の腕に預けていた彼女だけれど。
ふっと。腕が急に軽くなって。目を開けると、ゆきちゃんは俺の脇の下にいた。

「…どうしたの?」

「大丈夫だから、いらない。」

「え…?」

「…いらないの。」

そういうと俺の胸の上に遠慮がちに腕を回すとそのまま目を閉じてしまった。
もう起きる気配はなさそう。心地良さそうな寝息が聞こえてくる。

俺の腕枕はいらないってこと?
前はよくさせてくれたじゃん。



………。
ああ、この子は本当にもう…。
そこまで俺に気を遣うことないのにな〜。
“俺の腕が疲れることを気にして”いらないなんて言ったんだ。
もうちょっと甘えてくれたっていいのに。
それが君なんだけどさ。



「…ゆき…。」

くるんとカールした長い睫毛を眺めながら、俺はその白磁のような肌にキスを落とす。
さらっとした感触が唇を滑った。
お休み、ゆき…。











カチカチカチ…。
時計がやけに大きく時間を刻んでいる。
寝に入ってからどのくらい時間が経っただろう。
まだ空に月は在る。



「…っ、はっ…ケホケホ…。」

喉が熱い…。
今日そう言えば、学校帰りに雨に降られたんだっけ。そのせいかな。

「ケホケホケホ…。」

咳が止まらない。風邪を引いたのかもしれない。
このままじゃ眠っているゆきちゃんを起こしちゃうじゃん。

俺は必死で口に掛け布団を押さえつけ咳をやり過ごす。
それでも咳は体に響いた。

「…ケホッ……はぁ、はぁ……。」

ようやく大きく呼吸が出来たところで。
何かが俺を温かく包んだ気がした。

ふっと甘い香りが鼻を抜ける。柔らかな肌と落ち着く静かな心臓の音。
そして俺に合わせてくれる呼吸。

「…ゆきちゃん……。」

「…いいから。このまま眠って。」

「でも…。」

「心配させないでよ、バカ…。声出なくなったらどうするの?こうやってれば少しは温かいでしょ。」

そう言って彼女は自分の胸に俺を抱いてくれる。
とても安心する場所…。
ああ…。何か急に泣きたくなるのはなんでだろ?



「…人肌で温めてくれるんだね。」

「…バカ…。」

怒るように呟かれた、その“バカ”には。とても俺を心配している彼女の気持ちが詰っていた。その俺を抱いてくれるその細い腕からも必死に俺を包もうとしてくれる彼女の温度が肌を通して俺に浸透してゆく…。
呼吸が楽になってゆく…。
これは。
彼女しか持っていない俺だけの魔法だ。



彼女が、俺に。呼吸を合わせてくれて。
俺は、彼女の。居場所を何度も確かめて。
二人は同じ律動の中、眠りに就く。



俺は。今まで彼女を守ってきていたと思っていた。
でも本当のところは俺が彼女に守られていたんだ。





彼女だけの魔法。
俺だけの言葉。





にゃーと鳴く君。






ゆき…。
俺の可愛い彼女でいてくれて
ありがとう。
たとえこの声が嗄れるときが来たとしても。
君だけには伝え続けるよ。
この口で。
この目で。
この手、腕、胸、
俺全部で…。
“好きだよ”の
君にしか伝えることの出来ない言葉。








title:星と輝く




top




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -