こんなに距離が近くても。
どんなに心を許してもらえても。
俺は君の1番ではない。
1番には。
絶対になれないんだ…。





「***ちゃ〜ん。」

同じ帰り道を一足先に辿る彼女の背中に声を掛ける。少しずつ寒くなる秋の気配に、声は真っ直ぐな道を一気に通り抜けた。

俺の声にその柔らかい髪型揺れ、ゆっくりその瞳と目が合う。目が合えばたちまち彼女は笑顔になる。

「あ、晃!晃も今帰りなのー?」

彼女はそう言うと、仔犬が尻尾を振りながら近付いてくるように、真っ直ぐ俺目がけて掛けて来る。
従順で人懐こい。
こんな俺にも警戒なんて一切せず、他の奴らと変わらずに接する。

…ある一人を除いて。





「今日も相変わらずかわいいね〜。」
「あはは、今日何人目?それ言うの。」
「***ちゃんだけに決まってんじゃん。」
「はいはい、ありがとうございます。」

***ちゃんはおどけて返事をする。

「つれないな〜。そんなとこも好きだけどね。」
「ははっ、もう何遍も聞いたって。」
「…***ちゃんは〜?俺のこと。」
「えー、普通に好きだよー。」
「普通って〜?」

いつものように軽い空気感を漂わせながら、訊いている自分がいる。その口から聞きたいけど聞けない言葉を、期待…しているんだ、いつも。

「え、普通って友達の中で1番好きだよー。」

まっさらな笑顔が俺に衝撃を与える。一切照れも、ない。
冗談の空気に混ぜた本気。
君の鈍いところと無邪気さ。
そんなところも好きだけど、さすがにこういうときは正直キツい、んだよ?
…知ってる?

俺は数歩先を行く彼女の小さな何も知らない背中に問うた。







「ただいまー。」

寮に辿り着いた途端、ちょうど庭の縁側で昼寝でもと思ったのだろう。零に出くわした。

「あ、零。」
「ああ…。」

途端に***ちゃんの顔は綻ぶ。俺にもさっき笑って走って来てくれたけど。
それには匹敵なんかしない、花が咲いたような笑顔。
つまりは恋する顔だ。零に。

「晃と一緒に帰って来たのか。」

よく似通った近い友人であり、ライバルの俺に向けられる、その言葉と視線に混じり合う強い独占欲と嫉妬。零の声は僅かに低く、すぐに視線を落とした。

「えっ…れ、零、ち、違うの。いや、違わないんだけど、その…。」

君は零の誤解を必死に解こうとする。
『友達』として帰って来たのなら何もやましいことなんかないのに、どうしてこう必死になってしまうんだろう。
苦しいな〜…。
でも***ちゃんを苦しませるのも、また苦しいな〜……。





「偶然ね〜、ほんの数百メートル手前で逢ったんだよね〜。」
「そ、そう。」
「ふーん。」

零はそれだけ言うと、俺たちの横をすり抜け、庭の方へと行ってしまった。
俺のフォローにホッとしたのか、否か、その表情は見えなかったけれど。確かに。零の声が柔らかかった気がした。





***ちゃんと想いが行き交っているけれど、まだ赤信号の零。
***ちゃんへは一方通行でこの先行き止まり的な俺。

たとえ友達の中では1番であっても。
どうしても男の中では彼女の1番にはなれない、俺。





それなら。
男の中でたとえ零の次に好きだと言われても…。
あとは何番でも同じなんだ。この地球上の男の中では…。





2番目は100番目と同じ。
(1番になり得ない想いを、どうしたら諦められる…?)





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