中編 | ナノ

 便りを待つ

「あ?てめぇなんだその手紙。女か」

リヴァイは普段なら簡素な白い紙と封筒ばかり並ぶ上司の執務机に薄桃色の封筒を見つけ鼻で笑った。

「ん?ああ、いや…」

エルヴィンは珍しく歯切れの悪い返事をし、再び机上に視線を落とす。
そこには花の透かしが入った便箋。
繊細で控え目な文字が短く並んでいる。
女性には違い無いが、と言ったきりまた口籠ってしまった上司に部下はますます眉を顰めた。

「まさか恋煩いとか笑えること言うんじゃねぇだろうな」

「…残念だがご期待には添えそうもない。」

「はっ、そーかよ。その割には間抜けなツラしてるが」

悪魔、非道と罵られる彼でも、その容姿や勇敢さから一部の民衆たち、主に年頃の町娘や令嬢達の支持を得ている。

誹謗中傷の手紙に紛れ、ファンレターめいた手紙が届くことも稀にあった。
今更愛の告白文の一つや二つに色めき立つ歳でもない。
ただ、この手紙だけはいつもと何処か雰囲気が違うのだ。

「いや…」

それを上手く言葉に出来ず、一瞬口ごもると直ぐに手紙から目を逸らし、わざとらしくはぐらかす。

「報告書を貰おう。ご苦労だった」

さして興味も無さそうに、書類を机上に投げるように提出し、リヴァイは付き合ってられるかとばかりに団長室を足早に後にした。

一人になった部屋で新しい便箋を引っ張り出すと、エルヴィンは筆を白紙の上で迷わせる。

適度に距離と礼節を保ち、人の良さが滲み出た優しく丁寧な言葉達を思い起こした。

私信には極力形式ばった返信しかしないようにしてきたが、この手紙を読んでいると心が落ち着き、不思議と返事を書きたくなるのは普段堅苦しい書類に忙殺されているせいか。

机の端に差出人の署名がちらつく。

執務用とは違う青いインクでそのスペルをなぞる。

「なまえ…」

顔も知らぬ素直さの垣間見える筆跡の主の名を呟いた。





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