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 二人の孤独

雨が好きだ。

多分あの人は嫌いだろう。

壁外調査に支障が出るし、雨降りの日の彼は少し暗い顔をしている。

そんな彼に本当は雨粒の音に、水の温度に、優しい曇り空に心が落ち着くと言うタイミングを何となく逃していた。

きっと告白したところでそうか、と言われるだけで私の嗜好を否定しないであろうことは分かり切っている。

窓ガラスに垂れる水滴は、幾つもの雫と合流し支流を作り、一面に川模様を生み出してゆく。
結露する窓に落書きをして遊んでいると、不意に執務室のドアが開いた。

「エルヴィン、」

曇り空と間反対の真っ青な瞳。
やはり彼は見るからに雨は似合いそうに無い。

「どうした。なまえ、紅茶を淹れてくれないか」

大方また他愛ない無駄話を始めると決めつけているのだろう。
私に一瞥をくれただけでご機嫌を取ることもなく彼は真っ先に机についた。
実際そうなのだから、私は大人しくお茶を淹れに向かう。

部屋には雨音だけがしとしとと囁いている。
耳に染み込む音は優しく空間を満たす。
胎内にいる子はひょっとしたらこんな気持ちになるのかもしれない。
今日は雨降りで気分もいい。
聞いてみようか。

「ねぇ、雨は好き?」

つとめて自然に聞こえるよう問えば、彼はペンを走らせる手を少しだけ止めた。

「…どちらかと言えば、あまり気分の良いものではないな」

「だと思った」

分かり切っていたことだが、やはり少し淋しい。
お湯の沸き始めたポットに向き直り、棚から彼用のティーカップを出す。
後ろから微かな笑い声が漏れた。

「ふ、その点では君とは分かり合えそうもないな。君は昔から雨が随分お気に入りのようだから」

「…なんで」

「いつも雨の日は散歩したがる犬みたいに窓に食いついているだろう?」

私のことは全てお見通しとでも言わんばかりの得意気な双眸に言葉を失う。

ばつが悪くて、適当に返事を濁して茶葉を蒸すことに専念した。

いつから見られてたのか、いつから知ってたのかなんて尋ねるだけ野暮だろう。
聞こえてくる筆記音は心なしか楽しそうだ。

降り続く雨は触れてなくとも温かいとわかる。

きっと死ぬまで共有出来ない、小さな孤独も愛せる気がした。








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