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 あなたに罹患する*

人間はその殆どを視界に頼り生きているという。
しかし一度光を遮られてしまえば、他の感覚はじわじわと際立ち、自身を追い詰めてゆく。

粘液特有のぬるついた感触が口内に充満し、それ以上に喉奥を埋め尽くす塊に生理的な涙が滲み、目隠し代わりの布を濡らした。

息苦しさに顎を引けばすぐさま悟られ、後頭部を掴む手が股間に押さえつける。
抵抗しようにも両腕は後ろ手にぎちりと縛り上げられ叶わない。
なまえは無言の叱咤に教え込まれた動きを必死に反芻した。

脈打つ性器を舌でなぞると、大きさ、形、浮き出た血管の一筋まで頭に浮かび上がる。
唇に触れる陰毛は自分の唾液でぐしょぐしょだった。

猫が水を飲む時のような響きが耳に張り付き、その淫猥な音を自身が出しているという事実がより一層彼女の脳内に麻薬を分泌させる。

暫く奉仕を続けていると次第に性器は硬度と体積を増し、抽送が早まる。なまえは歯を立てないようにするので精一杯だった。

短い呻きと共に独特の香りを持つ粘液が舌に広がり、思わず眉を顰める。
怒張は銀糸を引き彼女の唇から引き抜かれた。
しかしそれで口内が自由になったわけではない。
生温く苦い体液を噎せながら嚥下するが、飲みきれなかった白濁が口端を伝う。

「っ、けほっ…!はーっ、は…」

エルヴィンは咳き込み荒い呼吸を繰り返す部下の目隠しをゆっくりと解放した。
己の姿が苦しさと涙で充血した瞳に映る。

「また零したのか。残すなよ」

素っ気なく呟き、漏れた精液を指先で掬い取り半開きの口唇をこじ開けると舌に塗り込む。

なまえの顔が苦悶に歪んだが、小さな舌は反射的に指を舐めているのが支配欲を膨れ上がらせた。

今まで床に跪かせていたなまえをベッドに上げ、はだけたシャツを殊更優しく剥ぐ。

「ひ、っ…」

かさつく指先が触れる度小柄な肢体は強張り微かに震えた。
肉食獣に睨まれた小兎の瞳では同情を買うどころか、男に優位を差し出し付け上がらせる結果にしかならない。

「そんなに怯えなくてもいいだろう?よく出来たご褒美をあげようとしているだけじゃないか」

エルヴィンは細い肩を押さえシーツに縫い付けると、ぐずる子をあやす口調で耳元に囁く。

声は昼間以上に穏やかだが、眼光は猛獣の如くぎらぎらと闇の中異彩を放つ。
なまえさ逃げる術のない恐怖に全身を粟立てた。
自由にならない腕を捩り抗うも、ただでさえ大柄で鍛え上げた男に何の意味もなく、屈強な肉体が容易く組み敷く。

「や、いや…!」

悲痛な悲鳴を楽しむように彼は器用に片手で肩口を押さえつけ、残す腕で太腿を開いた。

その中心は触るまでもなくぬらりと湿っている。
エルヴィンは散々拒絶しながら晒す嬌態に含み笑う。

「本当に嫌なら男のを舐めたくらいで濡らさないことだ」

既に首をもたげた性器を膣口に当てがうとじわじわ体重をかけ深く腰を沈めた。

「は、ゃあぁあっ!」

ふやけた膣内は簡単に熱の塊を咥え、本人の意思と裏腹に従順に吸い付き始める。
彼はゆるゆると律動し壁の襞を嬲った。

「く、うぅ、は、ぁあ…」

女としての快楽に耐えているのか、食いしばる歯の間からは苦しげな声と甘えた喘ぎが交互に零れた。

膣壁はいきなりの蹂躙に、怒張をぎゅうぎゅう締め付ける。
彼は更に体を倒し、白い胸元に顔を寄せた。
最早彼に反発する力は限りなく弱い。
肩を拘束していた手を下に滑らせ膨らみをゆるやかに揉む。
もう一方の桃色の部分を口に含めばなまえの嬌声はより淫色を増す。

「やだ、あんっ、ふぅ、んん?!」

ふいに硬く熟れた飾りを甘噛んでやると見る間に胎内の反応が変わった。
押し返さんばかりに絞っていた膣内が、迎え入れようとしているかのように男性器全体を揉み解す運動になる。
結合部からは透明な体液が溢れ、彼女の拒絶の言葉は一切説得力を失くした。

「あ、あぁ!くぅ、は、んっ!ぁ」

下半身が崩れそうな感覚に溺れながら、なまえは容赦無く自分を嗜虐する男の顔をぼんやり見つめる。

最初はもっと嫌がっていた気がする。
もっと苦しく、痛くて、慄くだけで。
本当に恐ろしいのは彼ではなく変容していく己だった。
一体、いつ彼に心や体の一部でも許したというのだろう。
今となっては何もわからない。

エルヴィンは無意識にいやいやと首を振るなまえを無視し、浅い場所を焦らしたかと思えば、胎内の入口を鈴口でキスするようにふやかすのを反復した。
最奥をぐっと穿った時、堪えるような喘ぎと共に、腰が浮く。

「あ、あっ、んんっ、ん〜っ…!」

「もう奥の味を覚えたのか。本当に素質があるよ、君は」

あまりの性感から逃れようと再び暴れ始めたなまえの腰を両腕でがっしり捕縛し一つになりそうな程密着する。
子宮口が本能にはくついているのを感じながら、そこばかりを解した。

「もっ、だんちょ…ひぅ!ごめんなさ…っ!」

彼女はとうとう泣きはじめてしまう。
涙で濡れ朱に染まる頬は作品めいて美しく、エルヴィンは至福に唇を舐めた。

「何を謝っているんだ」

限界を迎え短い収縮を始める膣奥にしつこい程に自身を教え込んだ。
やがて膣全体が性器にしがみ付き離すまいと引き攣る。

「や、あぁ!こわい、っはぁ、ん!」

「怖くない。直ぐに気持ち良いだけになる」

震える子宮の入り口に先端を捩じ込み、もがくなまえを抱きすくめた。

「ッあ…………!!!」

諦めとも屈服ともつかぬ儚い声を上げながらなまえは達し、彼も最深部に埋め込んだまま吐精した。

「ん、は、…」

胎内の熱を飲み込みながら余韻に霞む視界の中で冷めぬ青い炎がちらつく。

夜の終わりは、まだ見えなかった。







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