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 徒花

抱かれた後の朝は少し嫌いだ。
エルヴィンはこんなにも近くにいるのに着替えに取り掛かる顔はとっくに”団長”だから。

寝巻きのシャツを脱げば屈強な筋肉が朝日に照らされる。
いつ付いたものか数え切れない細かな傷跡が生々しい。

新しいシャツに着替えようとする背中に抱きついた。
そのまま僧帽筋に唇を押し付ける。

「何してるんだなまえ…」

眉根を寄せたもっともらしい大人の困り顔に怯まず尋ねる。

「これ、どうやってつけるの?」

鎖骨下の幾つかの痕を指差して見せる。昨夜の痕跡を残した張本人は目を瞬いた。

首筋から太腿まで、彼の癖なのか毎回無数の花弁を散らされるのだ。
対してエルヴィンの肌には戦闘の古傷こそあれどこの特徴的な痣は一つもない。勿論私が付け方を知らないからだ。

「キスだけではつかないさ」

団長の仮面を剥いだ男は口端で笑う。

「じゃあどうするの」

「吸い付くんだよ」

抱き寄せられ、首筋にちくりとした痛み。
頬に触れる髪がくすぐったくて身を捩るも、腰を掴まれ逃げられない。

「っ、」

背筋にはしたない感覚が走り思わず逞しい二の腕に爪を立てれば喉の奥で笑われた。

唇の離れた場所を見ると確かにいつもと同じ赤い印。

「真似してご覧」

後頭部に添えられた手が導くまま、エルヴィンの鎖骨下に口付ける。
彼の唇を反芻しながら恐る恐る肌を吸う。

「こう?」

息が苦しくなって、もういいだろうと胸元を確かめる。
しかしそこにはうっすらとそれらしき桃色があるだけだ。

「もっと強く」

「ん…っ」

再び促され、同じ場所に吸い付くと、さっきよりははっきりした痕がついた。けれどエルヴィンのものには及ばない。これでは一晩と経たずに消えそうだ。

名残惜しく、儚い鬱血痕を一舐めする。
頭上から微かな笑い声。
見上げれば鮮やかなブルーに一瞬欲がちらついた。

「今晩復習してやろう」

「…精進します」

つい癖で上司に対する口調になってしまう自分が憎らしい。
火照る頬は私のせいじゃない。

はだけたシャツを着直して、不敵に口角を上げるエルヴィンは余裕に満ち、大きな翼を背負う背中に自信を湛えていた。











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