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 死なないための葬送

※死ネタ









彼が死んだと知らされた時、私の口から出たのは、そう、やっと死んだのというあまりにも無機質な言葉だった。

彼の部下だという人の驚いた顔をよく覚えている。

亡骸が横たわる場所まで先導されながら、何処か宙に浮きそうな奇妙な感覚がした。

血に染まり褐色化したマントの下に眠る顔には意外にも傷は無かった。
その横にそっと跪く。

永久に閉ざされた空の色は私を吸い込むように見つめてはくれない。
もう耳触りの良い声で私の名を呼んではくれない。

人の死体は氷のように冷たいとよく言うが、頬骨に手を添えれば錯覚か皮膚の下には血潮が流れているようにさえ思える。

睫毛まで金色の、全てを自分以外の為に捧げた、美しき男。

時に冷酷と、時に悪魔と呼ばれた、凛々しき男。

固く結ばれた唇に口付けたのは、永訣の挨拶だ。
体温を感じたのは、やはり幻なのか。

「良かった…」

涙も出ない私のことを、人は冷たいと言うだろう。

幸か不幸か彼が居なくても生きていけるようにと、躾けられてしまった。
私を愛したくせに、ひとりにするなんて最期まで勝手な人。

貴方が私に遺してくれたものなんて数える程で、悲しみに浸ることも出来やしない。
色気のない本や簡素なシャツ、私に手紙すら書かなかった万年筆を形見にするなんてお断りだ。

形に残る贈り物が嫌いだったのは、私の泣き顔を見たくなかったのだと自惚れることくらいは許して欲しい。

「良かったわね、エルヴィン。これでもう、何も捨てなくて済むわね…」

ただ一人の男を愛したという、優しく激しく確かな感情をこの胸に刻み、私は続きを生きる。








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