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 キャンディーだと思って

「なまえ、これをやろう」

「わ、きれい」

唐突に差し出された瓶を受け取って、なまえは小さな歓声を上げた。

「王都の帰りに見つけてね」

瓶の中には色とりどりの球体が詰まっていた。

「でもこれ何?」

「知らないのか?飴玉だよ」

砂糖のような高級品は一般市民はもとより兵士も滅多に手に入らない。

小麦でかさましするクッキーならまだしも、砂糖だけで出来たお菓子を目にするのは彼女にとって初めてのことだった。

青や赤の艶を放つ飴玉達は、食べ物というよりまるで宝石のようだ。

両手で掲げた宝石箱に笑みを映して、なまえの瞳は輝いた。





数日後の晩、エルヴィンが仕事終わりになまえの部屋を訪れると、彼女はベッドに腰掛けながら読書に耽っていた。

傍らのチェストの上には、先日彼が気紛れに贈った飴玉の瓶が鎮座している。

飴は蓋まで一杯だ。

「なんだ、全然減ってないじゃないか」

目線まで持ち上げた瓶を軽く振ればがらがらと音がする。

「だって、もったいなくて」

ページから目を離し申し訳なさそうな上目遣いに、可愛い奴めと心中で呟いた。

「早く食べないと溶けるぞ」

そう言うとエルヴィンは徐に蓋を開け、飴を一つ取り出す。

琥珀色の飴玉をなまえの唇に押し付けると、彼女は素直に口に含む。
紅い舌がちろりと指先を舐めた。

「美味いか?」

「…おいしい!貴方も食べれば?」

「…そうだな、頂こう」

顎を掴むが早いか、すかさず舌を滑り込ませ口内の飴を奪う。

「んう?!」

突然のことになまえはくぐもった声を漏らした。

「っは……ふ、んん、」

深い口付けに紛れ、ぬるい飴玉が舌の上に戻される。

「…甘いな」

ぺろりと唇を舐めて離れる反省の色の無い男になまえは詰め寄った。

「エルヴィン、貴方ね…!ん、っ」

文句の続きは再び唇に塞がれ、二人分の体温が砂糖の塊をじわじわと溶かしていく。

「も、いい加減に、」

「そう怒るな、まだ沢山あるだろ?」

エルヴィンは息継ぎの合間の苦情を適当にはぐらかし、甘ったるい口内を堪能する。

小さくなった飴玉を噛んで飲み込んでやろうと思ったなまえは、視界の端に映る色で満杯の瓶と、男の余裕綽々の楽し気な声に抵抗を諦めた。









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