83.茶化す
後ろ手は何か隠し事をしていることは明白だ。
エルヴィンは単刀直入に尋ねる。
「なまえ、何を持っている」
なまえと呼ばれた彼の部下は絵に描いたようにたじろいだ。
「な、何も…」
言いかけたところで猫の鳴き声が遮り彼女の顔は岩よろしく強張る。
「…わかっているだろうが兵舎内での動物の飼育は禁止だ」
なまえは上司の溜息にめげずに背中に匿っていた子猫を差し出す。
「…団長権限でなんとか」
それは多少汚れてはいるが、鳶色の美しい毛並の猫だった。
しかし愛くるしい金色の双眸も上司の決意を揺らがせる切り札にはならない。
「却下だ。捨てるか飼ってくれる人を探しなさい」
「………はい」
予想はしていたものの、取りつく島もないエルヴィンになまえは項垂れた。
結果的にはその余りの落ち込み様は上司のわずかな慈悲を引き出すことに成功した。
「…特例として一週間は兵舎での飼育を許す。それまでに飼い主を見つけるなりすることだ」
「…!ありがとうございます!」
エルヴィンはぱあっという擬音語でも付きそうな表情の変わり様に内心吹き出しそうになる。
彼女の純真さに弱い己は自覚していた。
「全く…猫が猫拾ってどうするんだ」
「え?」
半ば独りごち、子猫を抱き自分を見上げる頭を撫で髪を乱した。
「こっちの猫はちゃんと飼ってやるから心配するな」
「…私は猫ではありません」
膨れっ面には不服と書いてある。
「そうかな?」
「そうですよ!何言ってるんですか!」
泣きそうになったり笑ったり怒ったり忙しい奴だ。
暫くからかってやりたい気はしたが、この後も予定が詰まっている。エルヴィンは未だ何か文句を垂れている猫を適当にいなし歩き出した。
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