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 悪魔

「悪魔」

ベッドに腰掛けた男がゆっくり振り向く。

薄暗闇の中僅かな灯りに照らされた顔はよく読み取れない。

もっと表情を見たくて近付いたら、二人分の重さにベッドが軋んだ。

「貴方、街でそう呼ばれているのよ」

「…そうらしいな」

「なんだ、知ってるの」

他にも穀潰しとか血税の掃き溜めとか調査兵団の別名は色々あるが、悪魔と言う呼称は主にこの男について使われることが多い。

「ねえ、悪魔呼ばわりされて傷つかないの?」

「特には。それにあながち間違ってはいない」

「ふうん…」

急に切なくなって、その背中に触れた。

無数の傷はいつどこでついたものかしら。

私が知らない沢山の傷たち。

男が生きてきた証が愛おしくて、一際くっきりした痕に頬を寄せる。

息を殺して耳を澄ませれば、心臓の音も聞こえる。

規則正しく時を刻む音も、いつか必ず止まる日が来る。

この世界で平等に与えられるのは死だけだ。

そう言ったのは誰だったか。

「もし、」

この温かく激しい音の、どこが悪魔だというのだろう。

「もし貴方が本当に悪魔でも、神様と呼ばれるよりましね」

「…ああ」

悪魔。好きなだけそう罵ればいい。

神として大衆に崇められるなど、この男には似合わない。

いつか男が世界に背いても。

せめて私は人間でいよう。

この鼓動が止まるまでは、私だけの悪魔だ。






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