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 ララバイ side M

「ねえ、モブリット入っていい?」

「え?!い、いいけど…」

扉から顔だけ覗かせれば、寝巻きに着替え書き物をしていたモブリットは驚いた顔で振り向いた。

「俺に何か用事だった?」

恐る恐る尋ねる表情が面白くて、内心で吹き出す。

「特には。お茶でも飲むかなって。淹れるね」

モブリットの前に紅茶の缶を翳す。
勿論こんなのはただの口実だ。
ほんとはちょっと怖い夢を見から会いたくなった、なんて言ったらきっと彼は笑ったりしないけれど、それでも躊躇われるのは、私のくだらない自尊心だろう。

「ありがとう」

素直に笑う横顔が愛しい。
貴方が私の安定剤だなんて、貴方は知らない。知らなくていい。

「今日の実験はどうだった?」

「いつも通りかな、分隊長はいつも以上に暴れてたけど」

茶葉に湯を注げば、独特の芳香が部屋を満たす。

モブリットにティーカップを渡すと、一言礼を言って直ぐにまた机に向かってしまう。
部屋の隅にあった椅子を引っ張り出して、隣に腰掛け彼らしい几帳面な文字を眺めた。

「…見られると集中出来ない」

気まずそうに見返されたのは意外だった。

「いっつもあんな状況でスケッチしてるのに?」

普段彼は巨人に至近距離で接し、緊迫した空気の中記録している。おまけに捨て身の上司付きだ。

「…巨人となまえは違うよ」

途端に口ごもり、紙の上でペンを迷わせる同僚の頬が薄っすら赤いのは気のせいだろうか。

「ふーん…ねえモブリット」

「な、何」

ペン先から滲んだインクが紙に染みを作っている。
仕事をしてない万年筆を取り上げた。

「今日ここに泊まっちゃ駄目?」

モブリットは飲んでいた紅茶をむせ返す。

「だ、駄目に決まってるだろ!!」

予想通りではあるが残念だ。
この部屋ならよく眠れそうな気がしたのに。
ハンジさん以外に叫ぶ彼を見れただけでも今日は良しとしよう。

「仕方ないなあ。じゃあもう戻るね」

未だむせている背中を放置して席を立つ。
廊下を数メートル歩いたところでばたばたと足音がして何事かと立ち止まった。

「あ、なまえ」

振り返るとモブリットが慌てた様子で扉から顔を覗かせている。
私に気付いた同僚は軽く手を掲げた。

「お休み!」

律儀な一言で確信した。今夜はもう悪夢は見ない。








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