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 ララバイ side H

「ハンジ、いる?」

「おおっなまえじゃん、どうしたのこんな時間に」

いつもと変わらぬ笑顔で出迎えてくれた同僚に胸を撫で下ろす。

ハンジならきっと起きていると思った。

相変わらず本と得体の知れないサンプルに埋れた部屋も、今日ばかりは落ち着く。

ハンジのソファ兼ベッドに我が物顔で腰掛けた。

「今日こっちで寝ていい?」

「別に構わないけど。珍しいね。あ、言っとくけど私は寝ないよ」

「うん、分かってる」

ハンジは研究に没頭すると日付を忘れる質で、平気で二徹くらい出来る。

連日訓練や壁外調査でくたくたになっているのに眠らないなんて、私には無理だ。

私が部屋に居ないもののように熱心に顕微鏡を覗き込む背中。

相手にされないからといって、決して冷たいわけじゃない。

少なくともこの空間に居ることを疎まれてはいない。

それだけで私には十分だった。

「ハンジ、好きよ」

「へえ、ありがと。私も好きだよ」

何回と繰り返されたくだらないやり取りにも懲りずに付き合ってくれる。

ハンジの側は居心地が良くて、滞っていた空気が通る気がした。

この人は何も聞かない。

どうして私の部屋に来たのとか、眠れないのとか、どんな夢を見たのとか。

けれどきっと私が話せば相槌を打って最後まで耳を傾けてくれるはずだ。

いつだって、ただ一心不乱に机に向かう後ろ姿が一日でも長く見られることを願っている。

「ハンジ…おやすみ」

背中に一声掛けて、クッションを枕代わりに就寝体勢に入る。
目を閉じる瞬間、友人は無造作に束ねた髪を揺らしながら振り向いた。

「おやすみ私の可愛いなまえ」

こういう言葉を突然言うからたちが悪い。

眼鏡の奥で細められた瞳に思わず熱くなった頬をソファに押し付けた。

私ばかり想いを背負っている訳では無いと、この人はそう伝えてくれるから、私は今日も安心して眠っていられる。















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