95.夢見る
「君と結婚する夢を見たよ」
出会い頭にそう言われ、言葉を失うなまえをよそにエルヴィンは続けた。
「子どももいた。君似の可愛らしい女の子でね」
今日は朝から幹部会議が入っている。
なまえはエルヴィンと共に会議室までの道のりを連れ立って歩く。
「寝ぼけてるようには見えませんが。突然どうしたんですか」
「夢見るくらい構わないだろ?」
さらりと零す言葉の中に自嘲の響きが混じるのは、この狭い壁の中では細やかな願いすら聞き届けられないと知り尽くしているからだ。
夢で戯れるくらい、神だって咎めはしないだろう。
「…そうですね。でも、私は子どもが出来るなら自分に似て欲しくないですね」
「おや、何故?」
会議室の前に着いたところで上司より一歩先立ち、扉を開き入室を促す。
「女の子でも男の子でも、貴方に似た方が美人になると思うので」
男が団長の顔つきになる直前、言葉の代わりに含み笑ったのを見て、彼女の中の淋しさは少しだけ救われた。
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