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 紳士3/完*

なまえは唇が離れた後も、何が起こっているのか全く理解できなかった。

「あの、」

続く言葉を発せないままに、次の口付けが落ちた。

反射的に固く閉じた唇の境い目をなぞるように舌先が侵入してくる。

その感触に驚いて思わず口を開けば、すかさず舌を絡めとられた。

「んんっ…?!ふぅっ…!」

ぬるぬると歯列をなぞる舌のざらつきに背筋が粟立つ。
脳みそがふやけたみたいに思考が鈍る。

私、何してるんだろう。
ついさっきまで、この人を遠くから眺めていたのに。

「っ〜!!」

酸素不足の体が悲鳴を上げる。

ただでさえ二メートル近い大男に口付けを受け中途半端に爪先立ちになっている上、口を塞がれて呼吸もままならない。

「は、だんちょ、苦しい…です…!」

反射的に胸板を叩けば数秒おいて唇が解放された。
肺がひゅうひゅうと泣き、空気を取り込もうと必死になる。

咳込むなまえを眺めるエルヴィンの表情には不可解と書かれていたが、思いついたように口を開いた。

「…ああ、息継ぎの仕方を知らないのか」

独りごち、勝手に納得すると自分と比べれば随分細い二の腕を引き寄せる。

「なまえ、鼻で呼吸をすればいい。それが難しいなら唇が離れたタイミングで息をしろ」

淡々とキスの受け方を説明し再開される口付けになまえの瞳からはいよいよ涙が溢れ始める。

状況を許容する器は容量をとっくに超えていた。

「は、んん!…ふ、」

好き放題に腰や太腿を撫で回す腕をがむしゃらに振りほどく。

「団長、も、離してください…!」

はあはあと息切れながらも、やっとのことで抵抗らしい抵抗の言葉を吐き出す。
腰から崩れ落ちそうになるのを、エルヴィンの腕が引き止めた。

「何故」

そう問われてもなまえは直ぐに答えることが出来ない。

団長の言う通り自分の事がわからないのかもしれない。

ぐるぐる考えて口から零れたのは自分でも予期せぬ一言だった。

「酷いです…」

「何が」

すかさず聞き返され、またもや口ごもる。

何が酷い?
いきなりキスされたから?無理矢理だから?

違う。
寧ろそれは望んでいたことではなかったか。

違う、本当は、そうじゃなくて。

もやもやと燻っていた雲が次第に晴れ、代わりに怒りにも似た奥から噴き出すような感情が顔を出す。

「知らない女の人を抱いたついでなんて、酷い…!」

淡い憧れと慕情が初めて確固たる意思を持ってエルヴィンと対峙した。

予想外の台詞と少女が見せた攻撃的な女の部分に、彼は目を見開く。

涙目の上目遣いは睨んでいるつもりらしい。
ふつりと奥底から欲が沸き起こるのを感じた。

「は…君は本当に優秀だよ、なまえ」

吐き捨てるように言うと、片腕を掴む手により一層力を込め嫌がるなまえをベッドまで引きずっていく。
精一杯の抵抗も男の力には全く歯が立たない。

「やあっ!」

ベッドの上へ引っ張り上げると同時にのし掛かり、あっという間に両腕を頭上で拘束した。
震える瞳がエルヴィンを見上げる。

「なまえ、君は私の事を紳士だとでも思っていただろう」

そう話しかける声は何処か楽し気だ。

「失望させてしまって悪いが私はそんな人間ではないんだ。この状況に興奮するくらいには下種でね」

二人で支部へ出掛けた日の穏やかな微笑みが思い起こされる。

今の上司の薄ら笑いに柔らかさは微塵もなく、ぎらぎら光る青い目は獲物をいたぶる大型動物のそれだ。

こんなの嘘だ。

心の中で叫んでも、手首を締め付ける鈍い痛みが現実だと言っていた。

なまえの混乱を振り切るように、エルヴィンは硬直した頬に手を伸ばした。

唇、首筋、鎖骨となぞり、胸元に降りていく。
そして掌に丁度収まるくらいの大きさの乳房に触れた。
強弱をつけながら態度と裏腹に優しく膨らみを揉む。

なまえは羞恥に頭がどうにかなりそうだった。

部下の肩を叩いて励まし、何枚もの書類にペンを走らせ、時には勇敢に刃を掲げた団長の手が、今私の胸を。

両手の自由が利かずただ眺めているしか出来ないことがより恥じらいを刺激した。

「はぅ?!」

爪先が胸の突起を掠めた瞬間、得体の知れない感覚が腰を走る。
己のものとは思えない声に唇を引き結んだ。

エルヴィンは自分自身に戸惑うなまえを一笑し、ワンピースの隙間から手を滑らせた。
少しかさついた皮膚が直接頂を煽る。

「っ?!ん、んんっ、は、ぁ!」

痛みともくすぐったさとも違う刺激になまえは肌を粟立てた。

自覚はともかく、性的快感を覚えたのを確認するとエルヴィンは手首の拘束を解き彼女の両膝に手をかける。

当然の抵抗にあったが、なまえが太ももを閉じようとするより右膝が滑り込むのが一歩早い。

「慣らさないと後が辛いぞ」

うっすら湿ったそこに指先を忍ばせる。

「かは…!」

まともな男性経験の無い女性には、たかが指一本でも呼吸も苦しい圧迫感だ。

なまえの反応を探りながら慎重に指を動かしていく。

最初はきつく締め付けていた内壁をゆるゆると擦っていると、次第に生温い粘液が滲み、指を根元から扱き始めた。

なまえは異物が膣内を動き回る形容し難い感触に悶えた。
きゅうきゅうと子宮が弛緩と収縮を繰り返すたび、切ないような意識が霞むような、恍惚とした心地良さが全身を支配し、口から勝手に零れる声は普段より数段高く甘ったるい。

「ひん、っ、く、止めてくださ、いっ」

「断る。それに君だって満更でもないようだが」

ろくに経験のない彼女でも今の自分が醜態を晒していることくらいは理解出来る。

なまえの睫毛が上司の前で見せるはしたなさに震えた。エルヴィンはその生娘らしい表情に、君は真面目だなと苦笑し、

「ご覧、君のせいでもうこんなになってしまった」

縛っていた片腕を手に取り股間に引き寄せる。
布の奥で熱を持つ塊に、逃げ腰になるのを許さず形を確かめさせるようにゆっくりと彼女の手で撫でた。

頬を真っ赤に染め視線を逸らす顎を掴めば、潤んだ瞳が対峙する。

「なまえ、怪我したくなければ力を抜くんだ」

「や!な、にを!」

抵抗にあう前に手早く太腿を捕まえて下腹部を膝に乗せる。

「何を?おそらく今君が想像していることだが」

エルヴィンはあっさり言い切って片手で器用にベルトを緩め、既に勃起した性器を取り出した。

不安がるなまえを一瞥し、ゆっくりと上半身を倒す。

先端が入り口を押し広げただけで、小さな体躯は仰け反った。
指とは比べ物にならない質量に金魚よろしく口を開閉させるしかできない。
なまえの瞳に生理的な涙が浮かぶ。

「っは…きついな…」

エルヴィンは千切らんばかりの締め付けに吐息を零し、細い腰に生々しい怒張を徐々に押し込んでゆく。

「ん〜っ!」

内臓を抉る圧迫感が息を詰まらせる。体内で蠢く塊をなんとか受け止めようと、なまえは鈍い痛みを堪えた。

「こら、歯を食いしばり過ぎだ。舌を噛むぞ」

眉根を寄せ苦悶する表情は艶っぽく、エルヴィンは唾を飲み込んだ。

「んう?!」

「咥えていなさい」

口内が傷つかないよう舌と上顎の間に指を噛ませもっともらしく窘めて、律動を開始する。

小柄な体躯は跳ねたり硬直したりを繰り返し、面白い程素直に反応した。

ふうふうと必死に呼吸の間隔を掴もうとする様が初々しい。
荒い息に混じって、控えめな喘ぎ声が漏れることに一層欲情した。

暫く抽挿を継続していると、緊張していたそこは、体液も手伝い性器全体を包むように揉みしだく。

ただ与えられる行為にいっぱいいっぱいだったなまえも、情事中特有の上気した頬と潤んだ瞳でエルヴィンを見上げた。

新鮮な変化にエルヴィンは年甲斐も無く、力のまま犯してやりたい気持ちをぐっと堪える。
猿轡代わりの指を抜けばだらりと銀糸が垂れた。

「は、だんちょう…きもち、いい…です?」

とろけた唇から漏れる甘えた声色は男に媚びる女性のそれだ。

「…それは良かった」

敢えて素っ気なくいなし律動を深めると、なまえは訴えかけるように胸板に爪を立ててくる。
何か言いたいらしいぱくぱく動く口元に耳を寄せた。

「っ、そ、じゃなくて…、だんちょうが、わたしと、して、きもちいいですか…?」

心配そうに尋ねる言葉に背筋を突き抜けるような快感が走る。
此方が主導で始まった事の筈がいつの間にか彼女のペースに飲まれそうだ。
それに気付いた瞬間怒張は一層膨らんだ。

「君って女は…堪らないな、末恐ろしいよ」

「ひぁ?!だ、だんちょ、なんか変な感じが、あぅ、抜いてくださ、くぅ!」

悲壮な制止を黙殺して、ふやけきった場所を執拗に穿つ。
なまえは最早自身が喘いでいるのか泣いているのかすら分からない。
一突き毎に子宮に快楽が蓄積されていくようで、このまま破裂してしまう錯覚が過った。

「や、ああぁ、ん!ひ、やだぁ、こわい…っ、」

思わず零れた不安をエルヴィンは猫撫で声で宥める。

「怖がらなくていい。気持ち良くなるだけだろう?」

逃げないよう腰を掴み、一点を突き上げた。

「……………!!!!」

なまえは背を弓なりにしならせ声も出せず達した。

「っ、く、」

初心な膣が搾るまま、エルヴィンも胎内に白濁を残す。

「っ、はぁ…ん、」

引き抜く時の嬌声に、性器が再び首をもたげかけたが、好物はじっくり時間をかけて味わうものだと急く心を落ち着かせた。

初めての絶頂の余韻に浸るなまえの口端から滲んだ唾液を拭ってやると、ぴくりと唇が痙攣する。

自分の一挙手一投足に期待以上の反応を示す部下を眺めながら、エルヴィンは随分な上玉を見つけた獲得感に愉悦した。

白く飛んだ意識が次第に回復してゆく中で、視界に入る金髪。
なまえが定まらない焦点で宝石みたいに青い瞳を見据えれば、いつも通りの紳士的な笑みが返ってくるだけであった。












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