Two Children後*
乾いた音が部屋に響く。
あまりの衝撃に倒れそうになるが、胸倉を掴み上げられている為それもかなわない。
「君は頭も切れるし、状況把握能力も高い。なのに何故自己の危機に関してはこんなにも愚鈍なのか、私は常々疑問なんだが…」
エルヴィンはこの書類を明日までに提出してくれ、と言うのと何ら変わりない口調で部下に評価を下す。
先程なまえをぶったばかりの右手で彼女の二の腕を撫で下ろした。
兵士として鍛えていると言っても、男よりは細く幾分柔らかな腕の感触を確かめると、そこに一気に圧力をかける。
「ぐっ…!!」
骨ごと潰されそうなほど握りしめられ、なまえは声にならない悲鳴を上げた。
「やっ、い、痛っ…!!」
「痛いか?それは良かった。痛くなければ躾にならないからな」
激痛を通り越し、痺れていく腕に焦り、必死に引き抜こうとするが、その気になった男の力に勝てる筈が無い。
「う、エルヴィン団長っ…」
「こんな時だけ団長呼ばわりか。都合の良いことだ」
エルヴィンはなまえの懇願を一蹴し、腕を掴んだまま、引きずるようにして、彼女をベッドまで連れて行く。
皺一つないシーツの上に、乱暴になまえを転がし、その上に自分も跨る。
「ひっ!え、エルヴィン、ごめんなさ…」
「今更謝っても遅い」
逃げ腰のなまえを無理矢理引き寄せ、ズボンと下着を手早く剥いだ。
力づくで開かせた太腿の間に、無骨な指を突き立てる。
「かはっ…!!」
まだ濡れてもいないそこに異物を挿入された圧迫感に、なまえはぱくぱくと喘ぐ。
「うあっ、く、あぐっ…!!」
しかしエルヴィンは容赦無くなまえの中を掻き回した。
「はぁっ、は、く、んんっ…」
エルヴィンが暫く指を動かし続けていると、なまえの反応が次第に変化していく。
同時に、初めは抵抗感のあったそこはいつの間にか湿りを帯び、エルヴィンの指を濡らしていた。
わざとらしくゆっくり抜き差しすれば、潤滑の良くなった指に粘液がまとわりつき糸を引く。
「えらく悦んでいるじゃないか。ちゃんと躾になっているのだろうか、なあなまえ?」
そう耳元で囁けば、なまえはぞくりと身を震わせる。
「っ、はあ、ん、なってる…なってるからもうやめて…っ」
拒絶しながらも跳ねる腰に、エルヴィンは苦笑した。
「君は存外好き者のようだ。まだ足りないか」
「やあ!!違っ!!」
一旦「躾」が開始されてしまえば、エルヴィンは聞く耳を持たない。
そんなことは分かり切っているが、最後の悪足掻きとなまえは足をバタつかせる。
「懲りないな君も」
新種の巨人でも見付けたように、目を丸くし不思議がる男になまえは心底恐ろしくなった。
抵抗虚しく抑え込まれた両脚の間に、息つく暇もなく怒張が突き立てられる。
「っああん!!ひぅ、ひ、ああぅ…」
打ち込まれる快感になまえは身を捩る。
のしかかる巨体にまともに息も出来ない。
「っは、なあなまえ、こうなるのは何度目だろうな。君には学習能力と言うものが無いのか?私に躾けられるのは嫌なのだろう?」
「あ、はあ、嫌に決まってんでしょっ…ううっ」
こんな横暴な抱き方をされて、喜ぶ女が何処にいるものか。
上司としては有能かもしれないが、人間としてはとんだ異常者だ。
躾の度に全力で拒否をするし、心底エルヴィン・スミスという人間を嫌いだと思っているのに、いつだって最後はこいつの下で喘いでいる。
なまえは悔しさに唇を噛んだ。
固く結ばれた唇にエルヴィンのそれが重なる。
舌が口唇の隙間を抉じ開け侵入してくる。
口内を蹂躙する舌の、快感なのか不快なのか既に区別出来なくなっている感覚を、なまえは必死に受け止めた。
肺を圧迫され、重たい胸板を押し返すがびくともしない。
好き放題なまえの舌をなぞった後、エルヴィンは気紛れに唇を離した。
ようやく解放され大きく咳き込むが、目の前の男は息一つ乱れていない。
硝子玉のように澄んだ瞳がなまえを見下ろしていた。
「君の後学の為に教えてやろう。喰われるのが嫌なら、そんな顔をしない事だ」
「は…?」
呼吸困難から、なまえの頬は上気し、半開きの口からはしまい忘れた紅い舌が覗いている。
エルヴィンはごくりと喉を鳴らした。
「此処に鏡があったら見せてやりたいよ」
「だから、何、言って…」
生理的な涙で視界が霞み、思考力の鈍っているなまえは息も絶え絶えにエルヴィンの声を聞く。
「盛りのついた部下達にまわされても知らないぞと言っているんだ」
「あう!んはっ!や、だ、動かないで、っ」
一層深くなる律動に仰け反る体は押さえつけられ、快楽から逃げることを許さない。
滲んだ視界でも見える空色の瞳の、美しい色の奥にあるのは、支配欲や加虐心ではない。
狂気にも似た純粋な興味だ。
痛みや快感を与えながら、相手がどんな反応をするのか楽しんでいるのだ。
子供のような感情で、人を振り回しいたぶり、躾が必要なのは一体どっちだと叫びたくなる。
しかし彼の思惑通り、狂気の渦に飲まれてそれも叶わない。
「はぁ、は、はっ、あぁ!」
「どうした、イきそうか?たまには可愛げのあることを言ってみろ」
「うるさ、い、っ…!」
「…強情なことだ」
「ひゃ!あうう!ふ、う…!」
なまえのささやかな反抗にも顔色を変えず、エルヴィンは彼女が確実に感じる場所ばかりを擦る。
生意気な口を聞きながらも抑えきれず漏れた嬌声が、エルヴィンの狂気を更に刺激した。
「は、っあ…!!!!」
「っ、く!」
一際強く抉られ、なまえは堪えきれず、絶頂に達する。
その締め付けにエルヴィンも欲を吐き出した。
「はあっ、はあっ…」
果てた余韻で脱力しているなまえの腕を引っ張り抱き起こす。
なまえは逆う気力を失い、大人しくエルヴィンの胸に頭を預けた。
大きな手が直前の乱暴など嘘のように乱れた髪を梳く。絵本を読み聞かす穏やかな口調で、
「嫌だ嫌だと言いながら、毎回私に躾られるのは君がそういう趣味だからか?」
けろりととんでもないことを吐く口に、なまえは憔悴しながらも辛うじて反論する。
「………飽きもせず人を殴ったり強姦するのは貴方がそういう趣味だからじゃないんですか?」
「まさか。こんなことを私にさせるのは君だけだ。」
「………」
「ああ、そうだ、新陣形の話だったな。約束通り聞いてやろう、話してみなさい」
「……明日でいいわ」
「なまえ?」
額を男の胸元に押し付け、情事でしわくちゃのシャツを握る。
君だけと言われてうっかり赤くなった顔を見られないように。
「エルヴィンの馬鹿ー!!!!」
後日、団地室の扉の向こうでは激しい一方的な喧嘩が繰り広げられていた。
「なんでまた却下なのよ!!ちゃんと練り直したのに!!」
運悪く通りがかったモブリットは立ち尽くす。
「は、ハンジさんどうしましょう!?」
「うーん、ほっといたら?」
「あんたは鬼ですか!!」
切迫詰まった表情で抗議する部下をハンジは軽くいなす。
「大丈夫だって!エルヴィンも楽しんでるよきっと!」
「そんなわけないでしょうが!」
自信たっぷりに言い切り、顔面蒼白のモブリットを横目に続ける。
「なまえだって構って欲しいだけだよ、本人が気付いてるか知らないけどね!」 prev|next