ララバイ side L
リヴァイのベッドが皺一つないのは、単に彼が綺麗好きだからだけではない。
彼は大して寛いだ格好もせず、椅子にもたれて眠る。
シーツが皺くちゃになるのはせいぜい気まぐれに私を抱く時くらい。
地下街での暮らしは想像出来ないけれど、きっと今まで安眠する環境に身を置いたことがないのだろう。
可哀想な人だ。
かく言う私にだって、たまには目が冴えることもある。
例えば、同室の友達が巨人に喰われた夜とか。
そんな日はとてもじゃないけど自室で独りで眠る気にはなれないのだ。
「リヴァイ」
窓際の椅子に腰掛け、腕組みして俯く陰の名を呼ぶ。
「あ?」
月光に照らされた白い顔は、昼間と同じく目つきは悪い。
ちゃんと布団に入れば少しはその隈もましになると思うけど。
そう提案したらきっと彼はますます眉を顰めるだろう。
「眠れないの」
「だったら起きてろ、眠くなるまでな」
「…うん」
これはリヴァイの遠回りな優しさだ。
私が眠れるまで起きてくれると言っているのだ。
「リヴァイ」
「…何だ」
「一緒に寝て欲しい」
「馬鹿か、一人で寝てろ」
月明かりに照らされた頬は青白くて、このまま眠って朝起きたら、夜に溶けて居なくなっているんじゃないかと、子供みたいに怖くなる。
こんな気持ち、リヴァイはきっと知らない。
「わかった…おやすみなさい」
形ばかりの挨拶に返事はなく、月明かりが透けないよう布団を頭まで被って瞼を閉じた。
どのくらいそうしていただろうか。
ようやくうとうとし始めた頃、微かな靴音に、意識が半分覚醒する。
足音はゆっくりと近づき、きしりと私の右側のマットレスが沈んだ。
横に腰掛けた人物が誰なのかは推測するまでもない。
思わず名を呼びたくなるのをぐっと堪え、息をひそめる。
起きているとわかったら、リヴァイが離れてしまうから。
耳をすませば木の軋む音や、遠くの廊下で巡回係の靴音もする。
個室という閉ざされた空間で、静寂の守られるここは砦のようだった。
例え明日から地獄が始まったとしても、誰が何人死のうとも、寄り添う人がいる限り生きてゆける。
その人さえ居なくなったら、私は今夜の優しさを抱いて糧にするのだろう。
瞼の奥で華奢な後ろ姿を思い浮かべながら、緩やかな睡魔に身を委ねた。
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