Poker Face
ぺらり、と一枚めくる。
ツーペア。
いけるか。
なまえは、男の様子を窺ってカードを広げた。
その表情には恐ろしいほど変化がない。
「俺の勝ちだなまえ」
目の前に投げ出されたカードはスリーカード。
「また負けた…!!」
がっくりとテーブルに額をつき項垂れる。
エルヴィンは肩を竦めた。
「君が分かりやす過ぎるんだ」
「うう…もう一回!」
散らばったトランプを集め、シャッフルを始めるなまえにため息をつく。
「往生際が悪いぞ。そろそろ負けを認めたらどうだ」
「これで最後にするから!」
「本当に最後だぞ」
カードを引き始めた向かいの相手にならい、エルヴィンも一言念を押して山札から5枚を引き抜く。
自分の手札の良し悪しを確かめる視線に、まだまだ手の内を君に悟られる程衰えてはいないよと内心で苦笑した。
一方のなまえは、そんなエルヴィンの心中にも気付かず手札を眺める。
ワンペア。
一つ勝負を掛け、一枚を捨て取りかえる。
よし!
なまえは手札を見て机の下で拳を握った。
「負けた方が勝った方の言うことを一つ叶える…だったね」
「そうよ!今度こそ絶対負けない!」
自信満々に五枚のカードをエルヴィンの前に晒す。
「ほう、スリーカードか」
しかし次の瞬間、裏返されたカードに目を剥いた。
「ストレートフラッシュ…?」
「悪いななまえ、やはり俺の勝ちだ」
満足気な笑みで椅子を引いたエルヴィンになまえは身構える。
「さて、俺のお願いを聞いてもらおうか」
「な、何…うぎゃっ!」
両腕が背中と膝裏に滑り込み、横抱きのまま真っ直ぐベッドに進む。
エルヴィンの”お願い”を理解し暴れてみるが後の祭だ。
頭上から教師のようなぴしゃりとした口調で、
「大人しくしなさい。もう三回もハンデをつけてやったんだ。夜は短いんだぞ」
ずり落ちた足を抱え直し、迷い無く歩く足取りはこんな時でも様になっている。
悔し紛れに肩口を叩いても、硬い筋肉はびくともしない。
「な、何でそんなにポーカー強いのよ!」
悲鳴まじりの叫びと対照にゆったりとした声が返ってくる。
「さぁ、何故だろう」
「っ〜〜!!」
エルヴィンは額に一つ口付けを落とせば途端に静かになるなまえに含み笑いながら、自分の勝負運の強さに感謝するのだった。
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