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 告解*

※鬼畜注意






男がその手紙を持って来た夜、彼女はとうとう自分の人生が自分のものでなくなることを悟った。

両手首を拘束する布がぎちぎちと皮膚に食い込み、生々しく痛む。

枕元には簡素な封筒から出された死亡通知書が広げられていた。
通知書には死亡者の名前、形式ばった追悼文、そして死亡理由が記されている。

死亡理由といっても、調査兵団の兵士の殉職理由などひとつである。
第何回壁外調査にて巨人との戦闘により死亡。
その一文だけ。

巨人との戦闘により死亡。

何度もその部分だけが脳内で反芻され、ぐるぐる回っている。

二日前、いつものように送り出した夫は、紙切れ一枚になって戻ってきた。

「君の旦那はたったあれくらいで死んだぞ。随分と脆いな」

揶揄の声が耳元に響く。
乱暴に服を剥ぎ胸をまさぐる手は、悪魔と呼ぶには人間らしい温度であるのに戸惑った。

男が随分前から自分を同僚の妻では無い目で見ていたことは知っていた。
夫が彼と話して居るとき、どれだけ穏やかに笑っていても、その網膜の裏にはちらちらと狂気が光っていた。

自然な流れでこちらに世間話を持ち掛けられた時も、蛇のようなぬらりとした縄を首に巻かれた気がして。

何層にも深みを持つ底知れぬ青い瞳の檻に囚われるのではないかと、恐ろしく思ったのをよく覚えている。
最初に会った時からずっと、彼が苦手だった。

なまえは震える声で尋ねた。

「夫の…最期を誰か見ていましたか」

激情を秘めた眼がきろりと睨む。

「さあな、あの男のいた索敵班は全滅した。見た奴がいても死んでいる」

救いのない言葉もどこか他人事に聞こえる。
瞬く間に崩れた世界に目眩がした。視界がどんどん狭まり、一番見たくない現実を突きつけて来る男から目が逸らせない。

「は、あぅ!!」

予告も無く当てがわれた先端は、鋭い痛みを伴い、胎内を侵略してくる。
息を吐いて紛らわせようにも、圧倒的な質量は許してくれない。

「ッア!う、は、あぁ」

彼女は反射的に不自由な手で自分を押さえつける胸板に爪を立てた。
男は顔色ひとつ変えず、更に深く挿入する。

「か、はっ…!エ、ルヴィン団長っ…!ア、ぐっ」

「もう少し色気のある声で鳴いてくれると嬉しいんだが」

エルヴィンは冷えた耳朶を甘噛み、口角を吊り上げた。

双眸は氷の温度で彼女を突き刺す。
悪魔。
反調査兵団派の住人は彼をそう呼んでいた。

律動の度、頭までずきずきと痛む。

彼に切り捨てられた命の中に夫がいる。
いつも心から優しく、屈託無い笑顔の似合う人だった。
夫はこの男を信奉し、素晴らしい人だと語っていた。

もう、私の愛した人も、愛した人の言う素晴らしい上司も居ない。

「っ、エルヴィン団長…、エルヴィンだんちょ…わ、わたしは、うぅっ」

私は、これからどうしたらいいんですか。
なぜ夫は死んだのですか。

考えれば考える程例えようもない不安がなまえを襲う。
堰を切ったように、見開かれた瞳から透明な滴が流れた。

この涙が悲しみか恐怖か絶望かも、もう分からない。

エルヴィンは目尻を伝う涙の川をそっと拭う。
しかし後から後から水は切りなく溢れてくる。
頬の塩水をひと舐めすれば、薄い肩がびくりと跳ねた。

怯える彼女を一瞥し、兵士には無い細い両脚を肩に掛け、生温い膣内を容赦無く探る。

なまえの背筋にぞくりとある感覚が走った。

「は、ン!…?!」

「…泣いて身体が解れたか」

エルヴィンは一言呟いて、貪る動きから、より怒張の感触が際立つよう、抽送を緩める。

「ひ!あ、やぁあ、は、うぅ」

持ち主の意思とは裏腹に、内壁は熱塊に纏わりつき求めた。
不本意な快感と劣情に媚びる鳴き声が溢れた。

エルヴィンは彼女の変化に両手の拘束を解く。
半ば無意識に伸びた両腕は男にしがみつく。

「は、ぁ!エルヴィン団長、だんちょう…!」

泣きじゃくり必死に縋り付く様は、はぐれた親に甘える子の様でもあった。

「ッく、」

くぐもった呻きが鼓膜を振動させた時、無理矢理上り詰めた身体が不意に軽くなる。
彼は痙攣する子宮を捉えて、身勝手な白濁を残した。





「頼る所は」

月明かりの宿る窓際に腰掛け、男が問うた。
ベッドの隅に放心し縮こまっていたなまえは小さく答える。

「……あります」

エルヴィンはふっと息を漏らす。

「君の出自は調べた。地方貴族の妾の子で夫と駆け落ち…帰るあてなどあるのかね」

黙りこくるなまえに彼は正直だな、とうすら笑った。

「君の面倒は私が見てやろう。首輪をつけ、鎖で繋いで」

動物を扱うかのような言葉に、彼女の憎しみがゆらゆらと頭を擡げる。
この男の命令で全てが壊されたのだ。
見るともなしに窓の外を眺める彼を窺いながら、サイドテーブルに指先を伸ばす。
果物籠の果実の隙間にはナイフがあった。
それを引き抜くとそっと逆光の中に佇む影に近付く。
あと一歩の所で気配に振り向いた彼に息を飲んだ。

なまえは構わず切っ先を目前に突き出した。
だが月光に煌めく刃にも男は微動だにしない。
それどころかゆったりと双眼を細めた。

「存外せっかちなんだな、心配せずともこんな男が長生きするわけがないだろう?」

なまえは絶句した。
見たことも無い寂しげな自嘲に、芽生えた激情は一瞬にして消える。

男を恨み殺した所であの人は二度と帰らない。
誰の所為にしても、失ったものは失われたままであることを知り尽くした哀しい眼。

夫が信頼した人は、どこまでも孤独で、悪役だった。

脱力した手からナイフがこぼれ落ち、甲高い金属音を立て床に落ちる。

ならばせめて。

枯れた喉から声を絞り出す。

「許さない…生きて、償ってください。貴方が死ぬべき時に死ぬその日まで、人類の勝利の為に尽くしてください…」

「はは…それでこそ君だ」

乾いた笑いが虚空を満たした。

エルヴィンはなまえを腕に抱き寄せる。
身を硬くした彼女は逃げなかった。

白魚の指が、いくつもの傷跡のある皮膚の中で、先程付いた赤に触れる。
そして彼女の手首にもまた、生々しい痕跡が刻印されていた。

なまえは紅い爪先を胸元の傷口になぞらえる。

「教えて下さい…あの人は…夫は本当に巨人に殺されたのですか?」

影は何も答えなかった。
ただ静かに闇に佇み、炯炯とした瞳だけが彼女を見つめていた。





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