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 嘘にすら誠実

「エルヴィン団長、好きです」

男の真っ青な瞳がきょろりと彼女を捉える。
子供っぽいその表情は、なまえの心をざわつかせた。

「…いきなりどうした、ハンジにチェスで負けたか?」

ハンジと彼女のチェスの腕はほぼ互角で、よく勝っただの負けただのと騒いでは罰ゲーム代わりに兵士に絡んで遊んでいるのをエルヴィンもよく見かけており、いつもの延長だと推察したのだ。

しかしなまえはきっぱりと言い切る。

「チェスは勝ちました。好きなんです、貴方の事が。」

一瞬開かれた青い瞳孔は直ぐに机上に向き直る。

「そうか」

再び書類に向かい合う横顔に諦めず詰め寄った。

「ふざけてると思ってます?」

「そうは見えない。が、君が何故このタイミングで突拍子もないことを言い出したのか考えていた」

「むかつくんです」

「は?」

思ってもみなかったというような素っ頓狂な声がより彼女をいらつかせた。

「そうやっていつも涼しい顔で大人ぶって!ちょっとは嘘でも私の事好きだとか可愛げのあること言ってみたらどうなんです?!」

「好きだよ」

「は」

自分で問い詰めたくせにあっけにとられるなまえを尻目に、エルヴィンは明瞭な声でそう言い放つと、椅子から立ち上がった。
彼はあれよと言う間に部下を壁際に追い詰め、その腕に捉える。

「は、ちょっ…」

硬直する頬を一撫でし、情けなく半開きの口唇にひとつ口付けた。
呆然と立ち尽くすなまえにエルヴィンは堪らず吹き出す。

「な、何が可笑しいんですか」

そこでやっと我に返ったなまえは、腰を曲げて笑いを堪える上司に、顔を真っ赤に染めながら詰め寄った。

「思い出したよ。今日はエイプリルフール…確か、嘘を吐いてもいい日だったね」

誰が思いついたか知らないが、壁が出来る前からあったという嘘が許される日だと通りすがりの新兵達が朝騒いでいた。

人をからかうのが好きな彼女だから何処かで聞いて、誰かで試したくなったに違いない。

「!!」

指摘すると、ばれた、とでも言いたげに見開かれた瞳はまさに悪戯を見つかった子供である。

全く傍迷惑な事だが、彼にとっては僥倖だった。

エルヴィンはばつが悪そうにそっぽを向く彼女の顎を捕まえ、再び口付ける。

「な、な…!」

「だからと言って私が嘘をついたとは一言も言っていないがね」

ぱくぱくと言葉を失うそこへ三度目の唇を落とした。







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