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 ずるい子供

「めっずらし!」

兵舎の屋上の一角は、兵士の小さな休憩所だ。
先客を見つけ、なまえは目を丸くした。

「…うるさいな」

ばつが悪そうに眉を顰める同僚に怯むこと無く、いや寧ろ楽しそうに彼女は屋上へ続く外階段を駆け上がった。

「はは!そんなモブリット久しぶりに見た!」

快活に笑うなまえと対照的に、彼は風下に立ちそっぽを向く。

「私にも頂戴」

めげずにシガレットケースに手を伸ばせば、高く掲げられた片手にそれを阻まれた。

「やだね」

「何でよ」

紫煙を風に捨てながら、モブリットはぼそりと呟く。

「似合わないから」

些か幼く見える彼女の容貌に対する素直な感想だったのだが、なまえの機嫌を損ねる結果となった。

「貴方だって」

「あ、」

精一杯背伸びして、口元の煙草を取り上げた。
地面に落ちた吸殻は潰されることもなく虚しく煙を吐き出す。

「煙草くさいキスは嫌い」

大人びた台詞にモブリットは思わず苦笑した。

「…子供の癖に」

彼女に文句を言われる前に背を屈める。
なまえの目前に鳶色の瞳が近付いて、甘くて苦い煙の匂いが鼻先を掠めた。







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