もじもじ
学校が終わったラフは窓の外を確認した。いつものように、そこにはバンブルビーの姿がある。
ダッシュで階段を駆け下り外に出て、乗り込もうとした―まさにその時、ある声に呼びとめられた。長らく聞いていなかった馴染みのある声。
「ラフ!」
「…えっ、お姉ちゃん!?なんでここにいるの?」
振り返った先には、大学に通っていて今はいないはずの姉の姿があった。
「大学の長期休暇に入ったから帰ってきたんだー。ひどいなーもう…会えて嬉しくないみたいな言い方」
「まさか!すごい嬉しいよ!」
「私も。高校は楽しい?」
「うん」
「久しぶりだねー」と嬉しそうにハグをしてくるので、ラフも嬉しくなってハグを返す。久しぶりにあったなまえは、前よりもいくらか大人びた顔をしていた。
「そういえばラフ、この車は?」
と、そこでなまえがバンブルビーの事に触れた。お姉ちゃんに声をかけられたのは、乗り込もうとしたちょうどその時。やっぱり気付いちゃうよね…。焦る心をごまかそうとして、手をぱたぱたさせてしまう。
「あ、あー…これはその、えっと、」
「随分かっこいい車だねー」
ぽん、となまえの掌がボンネットに乗った。
その途端。ビーの車内からラジオが流れ出した。
『やあ全国の皆さん初めまして!!』
「「!?」」
どこかの番組の司会者のセリフだろうか。いや、そんなことはどうでもよくて。
「えっ、何もしかして私が触ったから壊れちゃった!?」
「え、い、いや大丈夫だよお姉ちゃん!最近ステレオの調子が悪かったから多分そのせいだと…」
必死にごまかそうと言葉を並べると、目の前の車からは不機嫌そうな彼の声が。ぎょっとして目を剥くも、またもやビーは声を出した。
「ほら、今の音聞いた?ラフ。やっぱりどっか壊れちゃったんじゃ…」
そう言って、車のドアを開けてなまえが覗きこむ。
「ちょ、ちょっと待ってよお姉ちゃ、…!」
そこでラフは自分達が下校中の生徒からの注目を浴びていることに気付いた。
なんだ?と向けられる視線。
―このままでは、ここにいる全員にビーのことがばれてしまう。
背に腹は代えられない。ぐっと拳を握って決意したラフは、そのままなまえをビーの中に押し込んで自らも乗り込んだ。
「ちょっと!ラフ押さないでよもう」
「ビー出して!」
「b〜」
「えっ!」
ばたんと勢いよくドアが閉まって、車は走り出した。なまえはと言えば、図らずも運転席に座る形で呆然としている。
「ら、ラフ…この車オート運転なの?」
ここまで来たらどうしようもなくなったラフが彼らのことを説明したことは言うまでもなく。結局彼らはなまえを連れたまま基地に行ってしまったのだった。
バンブルビーから降りたなまえは、実際に目の前の車が変形していくのを見てぽかりと口を開けていた。
しかもその向こうで「今度は一体どこで拾ってきたんだ!捨ててきなさい!」「ちょっとラチェット、犬猫拾ってきたんじゃないんだから」などと言い合っているトランスフォーマーの存在もなまえの度肝を抜いたらしい。
どっちを見たらいいのか、と顔の方向があちらとこちらを行ったり来たりしている。とりあえず、変形のし終わったバンブルビーが腰をかがめて視線を合わせてきたのを見て、なまえは挨拶をしていた。
「え、えっと…こんにちは…あ〜」
「バンブルビーだよお姉ちゃん」
「あ、そうそうバンブルビー。えっと、うちの弟がいつもお世話になっています」
そう言って、握手をしようとバンブルビーの指を握りこんだなまえを見て、我が姉ながら肝が据わってるなあ…とラフは思う。そして、ふと見上げた先のビーはと言うとどことなく緊張しているようだ。というより照れくさそう。…照れくさそう?
「b〜…」
なまえと手を離したビーは、もじもじと指を胸の前で突き合わせながら、なまえをじっと見つめて1つ声を発した。
何を言っているのかはわからないらしいなまえだが、子犬のようなその目にほだされたらしい。
「か、可愛い…なんだこの生き物は…!」
呟いてぺしぺし機体を叩く姉を見ながら、ビーの言葉にやっぱりそうかとラフは頷いた。
依然、興味津津にビーに触れたり観察したりしているなまえに気付かれないように、ラフはそっと囁いた。
「頑張ってビー。僕応援してる」
こっそり囁いた言葉に、ビーは一瞬うろたえたが、そのあと照れくさそうに深く頷いた。
(一目惚れしちゃった…)
―――
ビーとの絡みがあまり無くてすみませぬ…。