枯れる前に
野原にぽつんと立っているサウンドウェーブ。その肩に腰掛けていたなまえは、二人ぼんやりと眺めていた空に鳥を見つけて指差した。
「サウンドウェーブさん、ほら鳥が飛んでますよ。なんて鳥なのかな」
『ツグミ』
「へえ…、可愛いね」
『貴女も可愛い』
「……恥ずかしいので止めてください」
『♪』
ぽん、と機嫌の良さそうな音を鳴らされて、なまえは困ったようにその顔のディスプレイを見る。
「からかってる?」
『本心』
「…〜聞かなきゃ良かった」
顔が熱くなったので、パタパタと掌で扇ぐと、細いその指で頭に触れられた。宥めているのか、ゆっくり撫でられる。
「意地悪ですね」
『?』
「…もう」
頭の指を掴んでぎゅっと握りしめた。
静かに私の好きにさせてくれることが嬉しい。
そのまま指を掴んだままじっとしていると、ふと肩を叩かれた。
「なに?…あ、」
上を向くと、サウンドウェーブの頭に鳥がとまっていた。先ほどのツグミだろうか。
落ち着いた様子で毛づくろいをしている。
「サウンドウェーブさん、懐かれたのかな」
鳥を驚かさないようにしているのか、先ほどのように音声は発しない。
なまえも黙ってその肩に凭れかかった。
そうやって、二人穏やかに寄り添っていたけれど、どうやら通信が入ったらしい。サウンドウェーブから通信の音が聞こえた。音が鳴ると同時に飛び立つ鳥。それを目で追いながら、聞いた。
「帰ってこいって呼び出し?」
『Yes』
ディスプレイに表示される単語に、やっぱりそうかと頷く。
「もうちょっと一緒にいたかったけど、呼び出しじゃしょうがないね」
私も、という風にこちらに伸びてきた指に、触れるだけのキス。
「また会えるときは連絡してね」
『必ず』
「ありがとう」
そっと地面に降ろされ、少しだけ距離をあけた。
『また』
「うん、また」
変形して去っていく前に、サウンドウェーブは近くに咲いていた花を摘み取ってなまえに差し出した。
帰ったら真っ先に花瓶に入れてあげよう。この前貰った花と一緒に。
そっと花弁に顔を寄せて微笑んだ。サウンドウェーブの不器用な愛情表現が嬉しくて。
彼はいつだって、その花が枯れる前に必ず会いに来てくれる。
ーーー
合成音声とディスプレイ表記で会話してるイメージ。ちゃんと甘になってますか…?