passionato
恋路十六夜番外
掌の中から、自分を捕まえている張本人を見上げて、なまえはさて困ったと首をかしげた。機嫌のよさそうな彼は一体何がしたいのだろう。
ふと、視線に気が付いたのか彼―ノックアウトが目を合わせてきた。
「ん？どうしたんだ？」
「…あの、それは私のセリフな気が…。こんなところまで連れてきて、どうしたんですか？」
「ああ。実はほら、これ。取ってくれない？」
「…ガム？」
赤い車体の一部分にぺったりくっついているガムを見て、思わずぽかんとするなまえ。いきなりバイト先に現れて、有無を言わせず乗れと促された理由が、まさかガムとは思いもしなかった。
「…もう、そのためにここまで連れてきたんですか？」
「いいじゃないか、俺となまえの仲だろ」
「なんですか仲って…。そんなに仲良くありません」
「まあまあ、ほら取ってくれよ」
そう言ってなまえを地面に下ろすと、ノックアウトは見る間にトランスフォームした。確かに、綺麗なその車体にガムがくっついているのは少し可哀そうだ。しょうがないなあ…ともう一度ため息をついてなまえはその部分をのぞきこんだ。
「でも私、ガムの剥がし方知らないですよ…。何か用品がいるんじゃないですか？」
「ああ、オイルで取れるらしいから、俺のオイル使っていいよ」
「へえ…。あ、じゃあ借りますね」
ティッシュを鞄から取り出すと、どこからともなく現れたケーブルがそこにぽたりとオイルを垂らした。擦って傷ができてしまってはダメだから、オイルを染み込ませるようにしながら様子を見てみる。
「綺麗に出来なかったらごめんなさい」
「んー…その代わり、キズものにしたら俺を貰ってくれるんだろ」
「…なんか違うような…。傷は付けないんで、終わったらちゃんと帰ってください」
「あー、はいはい」
「「はい」は一回」
「はいお嬢さん。お前だけだよ俺にそういうこと言うの」
心なしか愉快そうにその声が揺れる。くるり、と先ほどオイルを垂らしたのとは別のケーブルが腰に巻きついてきた。
「あーほんと、あんな堅物のところじゃなくて俺のところに来ない？」
「嫌ですってば、もう。あなたのところにいたら玩具にされそう」
「ペットなら？」
「だめ」
「俺の方が良い男なのに」
「そういう問題じゃないです」
思わずくすくす笑うと、ケーブルの巻き付く強さが少し上がった。
＊
「はい、取れましたよ」
「さすが、俺のなまえ」
「あなたのじゃ…もういいです」
ガムが取れたので声をかけると、ノックアウトは瞬時にトランスフォームしてその部分を確認しだした。
「…完璧だな。助かった」
「いいえ、それなら良かった」
満足気に頷いてノックアウトが腰を屈めたその時、遠くから聞き覚えのあるサイレンの音がした。二人してそちらの方を見ると、一台の救急車と大型トレーラーが向かってきている。
「あっ、ラチェットにオプティマス」
「…もうバレたか」
ノックアウトはやれやれと首を横に振ると、ついっと顔をなまえに寄せた。
近い距離に、恥ずかしくなって身を引こうとすると、逃げないように捕まえられる。
「じゃあな、なまえ。…今度は俺の方がいいって言わせてやるよ。覚悟してな」
耳元でそれはもう甘ったるく囁かれて固まるなまえの頬に、ノックアウトは口づけを落とすと、その手を離して素早くその場を去って行った。呆然として、頬に手を当てる。
…熱い。
熱を冷まそうと仰いでいると、いつの間にかラチェットとオプティマスが近くまで来ていた。トランスフォームすると、二人して焦ったように覗きこんでくる。
「すまないなまえ、遅くなった。無事か？」
「おい、何もされてないか？怪我は？」
「…ううん、別に何もされてないから大丈夫よ。ガムを取ってあげてただけだから」
「は、はあ？ガム？」
「そうガム。…自分でやるか、助手さんに取ってもらえばいいのにね」
ふふ、と笑うなまえにラチェットとオプティマスは疑問符を浮かべて怪訝そうな顔をしている。
二人のその様子を見ているうちにまた恥ずかしくなってきた。それもこれも、あんなことをしたノックアウトが悪い。ため息が零れた。
「あんなに熱烈に告白されるとは思わなかった…」
「……!!?」
小さな声で呟くと、聞こえていたのか、ラチェットが衝撃を受けたような顔をしている。
「こ、こくはく…？」
「え、あっ！ううん、何でもないの」
告白というかなんというか。
それでも、ちょっとときめいたのは黙っておこう。
―――
ノックアウトの口調がさっぱりわからないので捏造しまくりです。すみません…orz
なんで知り合い風なんだ、っていうのはまた本編で書きますね。
あと、ガムの取り方もグーグル先生に頼って書いたものなんで、間違っててもスルーしてください(´・ω・｀)