厄介

「なまえが優しそうなイケメンと話してた!」
「はあ?」


帰ってきたかと思うと興奮した様子でいきなり叫んだミコに、何事だと基地の全員が振り向いた。
一瞬ぎょっとした仕草を見せたラチェットが、どこで見たんだと問えば、なまえのバイト先の前を通った時に遠めから見たと言う。


「でも、何話してるかまでは聞こえなかったんだよね…」
「接客してたんじゃない?」
「そっかなー…でも、うーん…。どう思うボケ?」
「いや、俺に言われても…」


と、そこに件のなまえがオプティマスに乗って帰ってきた。
みんなしてなまえをじっと見る。異様な雰囲気になまえが一瞬怯んだ。


「ど、どうしたの?」
「なまえ、あのイケメンは誰?」
「イケメン…?」
「ほら、今日バイト先で楽しそうに話してたじゃない!優しそうな20代くらいの…もしかしてデートのお誘い?」


ミコがそう言った途端、みるみるなまえの頬が赤らんだ。その反応に全員ぽかんとする。かつて、なまえがここまで照れたことがあっただろうか。いやない。


「で、デート!?ち、ちが、えっ、み、ミコ何で知ってるの?」
「それは別にいいから!っていうか何その反応は!やっぱりデート!?それとも告白された!?」
「ち、違うよ!そんなんじゃなくて、あの、趣味の合うお店の常連さんで、ただ、今展覧会やってるから一緒に美術館にでも行きませんかーってだけで…」
「キャーそれデートじゃん!オッケーした?いつ行くの?」
「あ、明後日…」
「うわすごい!マジで?」
「だ、だからほんとに違うんだって…〜も、もう…!わ、私着替えてくる…」


恥ずかしいのかダッシュで逃げたなまえ。それを目で追ったあと、ラチェット以外の全員が目を見合わせた。あの反応はちょっとヤバイんじゃない?と。
そして、ジャックは恐る恐るラチェットを見た。

彼は呆然とした表情で固まっていた。


「うわ、やばい!ラチェットがショックのあまり固まってる!」
「そりゃ、こんな何考えてるかわからないような気難しいおっさんよりは、気遣ってくれて優しい温厚な男性の方がいいものね」
「ア、アーシーそれ以上言っちゃだめだ!」
「あっ、頭抱え出した。面白いから写真撮っておこーっと」
「ミコもストップ!!」


必死にジャックが止めてなんとかその騒ぎは収まったが、根本の問題はまだ解決してない。


「それで、どうするんだ?」
「どうするって言ったってジャック…こればっかりは本人の自由だもの。なまえも年頃だし、邪魔しちゃ悪いわ」
「そうそう」
「いや、でも…その…」


ちらっと、ラチェットの方を伺うと、いらいらとした様子で何かよくわからないものを作り出していた。


「あーラチェット?」
「…なんだ」
「ひっ」


思いっきりドスの効いた声で答えられ、びくりとする男性陣。それに対し、女性陣は悟ったような顔でうなずいた。


「放置ね。嫌なら本人が止めるでしょ」
「同意。面白いし」
「言えてるわ」


かくして、ラチェット以外の男性陣にとって冷や汗ものの時間が幕を開けた。ずっと機嫌の悪いラチェットに、不思議そうにしながらも気遣うなまえ。ただしなまえはラチェットが機嫌の悪い理由をわかっていないから、見ている方は余計にハラハラする。
なまえは、ラチェットが自分に「友人としてのパートナー」以上の好意を持っていると知らないし、気付いていない。だから、デートに行くことがラチェットの機嫌の悪いことに繋がっているとは露も思っていないのだ。



こうして、なまえのデート当日が来た。


「じゃあ行ってきます」
「こんな時くらい、思いっきり楽しんでらっしゃい」
「おみやげ買ってきてねなまえ!」
「ふふ、わかった」


待ち合わせ場所の近くまで送ってくれるというオプティマスに乗り込もうとしたなまえ。と、そこにむすりとした表情のラチェットが近寄った。


「ラチェット?」


そこからは、まさに瞬く間の出来事だった。
ひょいとなまえを掴むと同時にトランスフォームしたラチェット。そのまま脱兎の勢いでなまえを乗せて出て行ってしまった。


『…は、はあっ!?』


考えてもいなかった展開にそれぞれが驚愕する。だが、その驚愕も次第に呆れのようなものに変わった。よりにもよって当日に行動に移さなくてもいいのに…彼はとことん無器用だ。


「下手な少女漫画でも見てるみたいだわ」


ぽつりとミコが呟いた。




一方そのころラチェットの車内では、怒涛の展開に呆然としていたなまえが、そろそろ我に返りはじめていた。いつもなら有り得ないようなラチェットの行動を、なまえはハンドルに触れて問うた。

「…どうしたの?」


沈黙が続く。しばらくして、ようやくラチェットが口を開いた。


「…好きなのか?」
「え?」
「今日の相手だ」


思ってもみなかった質問になまえは瞠目する。


「好きだけど…良いお友だちとしてだよ。まあ、確かにかっこいいなーと思う事はあるけど…」
「…本当か?」
「ほんとだよ。…ほら、私こっちに来てから同年代の人と話す機会が無かったから、いい話相手なの。趣味のこととか」
「…そう言えば、お前の周りには年下か年上しかいないな」
「でしょ?あとは彼の恋の相談を聞いたり、友だちの話を聞いたり…」 
「ああ、恋の相談……恋の相談?」


ラチェットのその反応になまえは首をかしげた。


「あれ、言ってなかった?彼、年上の彼女さんがいるから、その恋愛相談も聞いてるの」


凍りついたような沈黙が流れた。


「…おい、待て。じゃあなんでデートかと聞かれたときに照れてたんだ」
「それはだって…ちょっと恥ずかしいし」
「いやなんでだ!」
「だ、だってデートとかしたことないから、なんかデートって単語だけで照れくさくて!」
「…今までの私の葛藤は何だったんだ……!何故もっと否定しなかったんだ…」
「だって、あんなにハッスルされたら止められなくて」
「もういい…!もう何も言うな!」
「は、はい」


結局なまえを送って行ったラチェットは、基地に帰るなり自己嫌悪に頭を抱えていたという。



(「恋人が他の女と遊んでいても何も言わんのか…」「そのあたりはサバサバしてるし、お互い信頼してるからいいんだって二人とも言ってたよ」「彼女とも知り合いなのか…」「うん、友だち」「…そうか……」)





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恋路十六夜設定にしちゃいました。すみません…orz



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