童話のように

友人に誘われてやって来たクリスタルレイク。留学したばかりで、まだまだ英語が不慣れな私に楽しんでほしいのだと、わざわざ誘ってくれたらしい。
けれど、ここに来たはいいが、友人らは彼氏やほかの男の子といちゃいちゃしだしてしまい、すっかり肩身が狭くなってしまった。ひどい…。
湖で一人遊ぶ気にもなれず、森へと足を運ぶ。
もともとスキンシップは苦手な方だから、まあいいか…。…別に寂しくないもん…。
色々考えながらとぼとぼ歩いていると、ふと、足元にキノコを見つけてちょっぴりテンションが上がった。


「キノコ…あ、あっちにも」


青春真っ盛りの女の子が一人で、まして花みたいな可愛いものではなくキノコを辿っていくというのも随分と悲しい状況だ。本人はまったく意に介していないが、もしここに第三者がいればツッコミたくなるに違いない。そんなんでいいのか、と。



途中、変わった草を見つけたり、鳥やリスを追いかけたりして、どんどん森の奥深くに入って行ってしまったなまえ。

ふと気付いた時には遅かった。




「……どっちから来たっけ…」


帰り道がわからない。しかも、鬱蒼と茂る木々のせいで辺りも暗い。
突然、カラスがばさばさっと飛び立った。音にびくりと振り返る。

―怖い。


「だ、誰かーっ!いませんかー!」


おもわず日本語で叫ぶも、帰ってきたのは不気味な静寂だけだ。


「ま、迷子がいますーっ!…わ、私だけど」


どうしよう…と蹲ったまさにその時、背後の茂みががさりと揺れた。
もしかして、誰か探しに来てくれた!?と、期待に胸を膨らませながらなまえは振り返る。


「よ、良かった気付いてくれ……た?」
「……」


ところが、予想に反して現れたのは大柄でホッケーマスクを被った男の人だった。異様な風体に一瞬ぽかんとする。
ホッケー選手…?いやまさか…。あ、鉈を持ってるし狩人とかかもしれない。
首をかしげながら見つめる。だが、すぐに立ち直ったなまえは、彼のほうに駆け寄った。


「あ、あの…すみません、えっと、この森の方ですか?」
「……?」
「つ、通じてない…えっと、あ、湖はどっちですか?れ、レイクです。レイク」
「?」


普段ならもう少しはまともに話せるはずだが、よくわからない状況に混乱しているのだろう。出てくる言葉は日本語混じりで片言だ。目の前の男の人は若干首をかしげている。それにますます焦りを覚えて、あわあわと手を動かした。


「あ、う…ど、どうしたらわかりますか…?え、えっとこういう時はなんて言うんだっけ……」


なんだかもう、情けなさや不安や混乱でいっぱいいっぱいだ。こんなことになるなら、あの時森に行こうと思わずに、大人しくみんながイチャイチャしてるのを傍観してるべきだったんだ…。

ぐすっと鼻を啜ったその時、ぽすんと頭に何かが乗った。何?と思って見上げると、なんと目の前の男の人の手だった。
その人は、掌を乗せたまま、少しの間ぎこちない様子で固まっていたが、しばらくして掌を離すと、指をある方向にのばした。


「…あ、あの、もしかしてあっちが出口?」
「……」


彼はこくんと頷くと、指をさした方向に向かって歩き出した。おいで、という風に振り向かれたので慌てて追いかける。時折、ちらりちらりと確認しながら歩いてくれるその歩みはゆっくりだ。


しばらく無言で歩いていると、前方から日の光が射してきた。目を凝らすと湖の青も見える。


「で、出口…!」


ほっと安心すると同時に、目の前の男の人もぴたりと足を止めた。
不思議に思って見上げると、マスクの向こう側の目と目が合った。無機質だけど、優しげで、不思議そうな色をたたえている瞳。行かないのか?と問われている気がして、なまえは口を開いた。


「あなたは行かないの?」
「…」
「…ありがとう、ここまで連れてきてくれて」


先ほど頭に乗せてくれたその大きくて無骨な手を、両の手で包む。


「私の名前はなまえです。あなたの名前は?」


中学校のテキストに出てくるようなマニュアル英語。それでも、なまえのその言葉には深い感謝がこもっていた。

包まれていた手がそっと動いて、なまえの掌を上向ける。


「j a s o n……ジェイソン?」


指でつづられた名前を確認するように唱えると、頷かれた。口の中でもう一度その名前を復唱する。ジェイソン。


「…また、会えますか?」
「…」
「…私、もう暫くここにいるんです。その間はまたここ―」


そう言って、なまえは今自分たちがいるところを片手で指差した。


「ここに来ます。…もし、良かったら、」


思うように話せないのをもどかしく思いながらそこまで言うと、森の外からなまえの名を呼ぶ声が聞こえた。
はっと身じろぎする二人。

もう一度大声で名前を呼ばれて、なまえは名残惜しそうにそっと手を離した。




「ありがとう、ジェイソン。…またね」



微笑んで見上げると、首が縦に振られた気がした。









―――
なんだか夢主が不思議ちゃんというかあほの子になってしまい申し訳ないですorz
森のくまさんならぬ森のジェイソン君。


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