恋、始めます
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人生何が起こるか分かったもんじゃない。

夢だった海軍に入って、元帥であるセンゴクさんの下で働くようになって早数年。それなりに周りから可愛がられてきたし、センゴクさんからは孫のような扱いを受けてきたと思う。順風満帆な平和な私の人生、だったはず。それはいとも簡単に崩れ去った。

それはたった数分前から始まった。

上司であるセンゴクさんに呼び出されて部屋に向かうと、当の本人は少し疲れた顔をしていた。この前の任務の話か、書類に不備があったのか。そんな不安もあったがそれ以上に気になる点がある。黄猿大将が部屋にいるという点だ。
きっと何か仕事の件で話していたのだろうと思い「また改めて伺った方がいいですか?」と聞くと「いや……いい、まぁ座れ名前」と黄猿大将の横に座るようセンゴクさんから指示された。

正直めちゃくちゃ緊張した。センゴクさんより階級が下とは言え相手は大将だ。めちゃくちゃ強いし。背も高いし。あと声が良い。正直な話をすると、黄猿大将の声がめちゃくちゃ好みだ。耳が孕むとはこういうことを言うのかもしれない………なんて現実逃避してる場合じゃない。いや実際三大将の中でも一番好みなんだけどね!!

そして黄猿大将の横に座ったのを確認したセンゴクさんは大きな溜息をつくと、私に「急で申し訳ないしプライバシーに関わる質問をするが………名前、お前恋人はいるか?」と聞いた。仕事三昧の日々を送る私にそんなものはいるはずも無く、即答で「いません」と答えた。その答えを聞いて更に苦い顔をするセンゴクさん。その反応を不思議に思い、理由を聞くと言い出しにくいようで少し間を置いてから、決心したように私にこう言った。


「名前、ボルサリーノの嫁になれ」


そして冒頭に戻る。

「………………はい???センゴクさん今何て言いました???嫁???私の聞き間違いですか?????」
「聞き間違いでは無い」
「突発的すぎて着いていけません!!!だ、大体私黄猿大将とそういう関係じゃないですよ!!??」
「知っておる」
「だったらなんで」

なんでこうなった。
突然の嫁発言に頭の中はぐちゃぐちゃ。横に座っている黄猿大将はニコニコしながら私とセンゴクさんのやり取りを見ている。

「ボルサリーノもいい歳だ…身を固めたらどうだと聞いたら相手がいないと」
「……それで私ですか」
「…まぁ、そうなるな」
「ッ、大体!!黄猿大将はいいんですか!!??こんな感じにされて!!」

黙ったままの黄猿大将に話し掛けると、相変わらずニコニコしながら私を見た。


「寧ろ君みたいな可愛い子、わっしには勿体無いんじゃないかって思えるくらいだけどねェ〜」


乗り気だった。

「え!!!??いいんですか!!??私達結婚させられちゃうんですよ!!??」
「わっしは全く問題ないよォ〜〜」
「そ、それにほら!もっといい人がいると思います!!!」
「君もいい女だと思うけどねェ」

駄目だ。勝てる気がしない。
というかこの人は結婚させられそうになってるっていうのに全く慌てる様子がない。大将というのは皆こういう人間なのだろうか。

大混乱をしている私の手を取り、黄猿大将は私の目をじっと見た。視線を逸らせない…いや、逸らさせないとばかりに見つめてくる。

「…わっしと結婚するのは嫌かい?」

優しい声色でそう聞いてくる黄猿大将に、不覚にもときめいてしまった。心臓がバクバクして、黄猿大将に聞かれてるんじゃないかって思えちゃう。
嫌ですって言ったらきっとこの話は無しになるんだろうけど、勿体無い気もしてきちゃってるし。

「い、嫌では無いです……………けど急すぎてすぐに答えは出せません」
「……それもそうだねェ〜………なら」
「えっ」

掴んでいた私の手を引っ張る黄猿大将。突然のことだったので引っ張られた勢いで、そのまま黄猿大将の胸に飛び込むような体勢になってしまった。顔が近い。


「今日からわっしらは婚約関係ってことにしようか…ね?名前ちゃん?」


サングラス越しに黄猿大将の目が優しく笑っているのが見える。

センゴクさんの溜息が聞こえたが、それが安堵の溜息なのか、不安の溜息なのかは今の私には知りもしないことなんだけど。

この選択がいい人生に繋がるように祈りながら、私は婚約を承諾してしまったのであった。




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