だって好きだから
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「いやァ〜いいもんだね、恋って」
「オ〜〜…何だい突然…」

とある昼下がり、ソファに深く腰掛けニコニコと笑いながらお茶を啜る青雉。その前に座る黄猿も同じようにお茶を啜り、青雉の話を聞く体勢を取る。

「ほら、おれの補佐の子いるでしょ?おれこんなにゾッコンになるなんて思ってなかったんだけど…あの子がいるなら仕事してもいいなぁ〜って思えるくらいになったわけよ」
「してなくても仕事すべきだと思うけどねぇ」
「いやいや実際いいもんだよ?執務室入ったら出迎えてくれるし、お茶は美味しいし、仕事早いし」
「まるで…」
「おれのお嫁さんみたいでしょ?」

黄猿はデレッとした顔でそう言った青雉に呆れつつも話を続けるように促した。

「まぁまだお嫁さんじゃないけどね」
「まだ…ってことはいずれはするつもりなんだね」
「そりゃあ勿論!!どうせなら最大に挙げたいでしょ?」

左手の薬指をじっと見つめ、結婚式の妄想でもしているだろう青雉に黄猿は溜息をついた。青雉はそれを見てムッとした表情をする。

「何?なにか文句でも?」
「いやァ〜…こりゃ随分と苦労してんだねェ……」
「苦労なんてしてないさ」
「キミじゃなくて………ねぇ?名前ちゃん?」
「………………………居ないってことにしてるんで話し掛けるの止めていただけないですかね…」

黄猿が話し掛けた相手は、書類から目線を離すことなく手をずっと動かしている。青雉の会話に先程から出る補佐こと名前は顔を上げると、心底嫌そうな顔をしながら青雉を睨んだ。

「…大将仕事してください」
「そんな顔しないでよ…まぁそんなとこも可愛いんだけど」
「アリガトウゴザイマス」
「照れちゃってまぁ」
「照れてません!!!!」

思わず手元にあった紙をぐしゃりと握り締めた名前は、慌てて紙の皺を伸ばした。その紙が書類で無いことを確認し安心すると、名前は机に置いてあったお茶を飲み干し、再び青雉を睨んだ。

「第一そのような話をここでしないでください…全体の士気が下がります。そもそも迷惑ですここ職場ですから」
「…迷惑掛けたことないと思うけどなぁ〜?」
「ありまくりですよ…大将…………知ってます?大将と付き合い始めた次の日にすれ違う方全員に『おめでとうございます!』『やっとですね!』って言われたんですよ!!??知れ渡るの早すぎなんですよ!!!!」
「嬉しくてつい」
「ついじゃないですよ!!!」

青雉は立ち上がると、名前の傍に寄る。名前の頭を優しく撫で、そっと髪にキスをした。

「だって悪い虫付くの嫌だからね、おれの物だって分れば下心で近付くやつも居なくなるだろうから……こういうのは早めに手を打っとくモンなの」
「………………」
「あ〜らら…顔真っ赤」
「ッ!!!う、うるさい!!!!!!!」

頭を撫でていた手を叩き落とし、名前は青雉の顔に書類の束を押し付ける。

「これあと大将の判子押していただければいいので後はよろしくお願いします私はご飯食べてきます!!!!!!!!!お疲れ様です!!!!!!!!!」

乱暴に扉を閉め部屋を出て行った名前を見ながら、青雉は押し付けられた書類の束を自分の机の上に置いた。


「………な〜〜んかわっしのこと完全に忘れてないか〜〜〜い?」
「途中から完全に居なかったことになってたね」
「痴話喧嘩も程々にねェ〜〜」
「……善処します」


青雉と黄猿は残ったお茶を飲み干すと、部屋から居なくなった名前の話を再び始めるのであった。


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