裏路地と誘惑とこの状況をどうしろというのだ。
日も落ち始めた夕暮れ時。会社帰りのサラリーマンや学校帰りの女子高生やらが大通りを歩く時間帯。
そんな日常的な光景から切り離されたかのような薄暗い裏路地で、いわゆる壁ドンをされている。
少女漫画でよく見るシチュエーション。一般的に言ったらロマンティックで一度は体験してみたいことなんだろうなぁ。
勿論、こういうのは相手にもよるけれど。
「秋山さん……いい加減どいてくれませんかね」
「ん〜?どうして?」
「恥ずかしいですし…」
「ははっ、照れてる?」
「照れてません!」
にっこりと笑いながら顔を近付けてくる秋山さん。イケメンの部類であろう整った顔は、普通の女の子なら一発でノックアウトだろう。
しかし何度もこういう経験をしている私にしてみたら、またかと逆に呆れてしまう。
「可愛いねぇ名前ちゃん」
「さ、触らないでください…」
「え〜何で?今さらでしょ?…それともこういう場所だから変に思っちゃってるのかなぁ」
「んっ」
私の頬を撫でながら深くキスをしてきた。
秋山さんとはキスもそれ以上もした関係だけど、こんな場所でしたことはなかったから不本意だけど余計に感じてしまう。それに気付いているだろう秋山さんが、キスをしながらふと笑った気がした。
ねっとりと舌を絡まされ、お互いの唾液が混ざり合っていく。
逃げようにも後ろは壁だし、秋山さんに顔を固定されているから息をするのもいっぱいいっぱいだ。
「あ、秋山さ…」
「名前ちゃん…とってもえっちな顔してるね」
「!?駄目ですって!」
キスをやめ、首筋に唇と舌を這わせる秋山さん。
それだけならまだしも、下半身をこすり付けている。既に固くなったそれが、主張するように私に当たる。
「いいでしょ?俺もう我慢できないんだけど」
「こんな場所じゃ、んっ、いやです…!やっ、秋山さん!」
「ほら触ってみてよ…名前ちゃんの声聞いてたらこんなに固くなっちゃった」
私の手を取って無理矢理股間を触らせられる。スラックス越しでも分かる秋山さんの形。なんだかんだ言って私で感じてくれているのが嬉しい。
「ねぇ、いいでしょ?」
耳元で吐息たっぷりで囁く秋山さんの顔はきっと笑っているのだろう。
聞こえていたはずの大通りの音なんてまったく耳に入らなかった。
囁いた秋山さんに「嫌だ」とも言えず、私は頷くことしかできない。
「いい子だね」
優しく頭を撫でてくれた秋山さんは、思っていた通り、にっこりと笑っていた。
これからしようとすることを、隠すかのように………。
end
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