こころの準備ができるまで待って(おまけ)





 目を覚ますと、シャマルの腕のなかだった。シャマルは眠っているようだが、雲雀が身じろぐと抱きしめる力が強くなった。頭痛は治まっているが、心拍数と体温が上昇する。雲雀は拘束から抜け出そうとしかけて、止めた。
 好きだ、と云われたのは夢ではなかったのだ。常日頃男は嫌いだとさんざん云っていたから、望みはないと思っていた。そんな男を好きになってしまったことに苛立ちを覚えたりもした。まさか、雲雀を治療してくれるのが好きだからだなんて、思ってもみなかった。
「せんせい」
 雲雀は小さく呟いて、シャマルの胸に頭を預ける。やがて動悸は治まり、眠気に誘われるまま目を閉じた。
 次に雲雀が目を開けたときには、シャマルは起きていた。雲雀の額や首筋に触れる。
「熱、下がってるな」
 柔らかな声に、雲雀は頷いた。雲雀がもそもそと起き上がると、シャマルも身体を起こす。
「ヒバリ」
 シャマルはいつになく真剣な表情で雲雀を呼ぶ。雲雀は少し首を傾け、それからシャマルを見上げた。
「さっきは、勢いっていうか、何となくその場の流れで云っちゃったような感じだったから、もう一回ちゃんと云わせて」
 シャマルはそっと細い手を持ち上げる。
「ヒバリが好きだよ。好きだから大切にしたいし、もっと傍にいたいし触れあいたい」
 心地よい低音が雲雀の鼓膜を震わせ、それを紡ぎ出した唇が手の甲に寄せられる。雲雀は魅入られたように息を詰めて見つめていたが、シャマルと目が合うと慌てて逸らした。シャマルは無理に雲雀の顔を覗き込もうとはせず、優しく髪を撫でる。
「殴りかかってくるのでも、怪我の治療でも、ヒバリが来てくれると嬉しかった。もっとずっと触れてたいなぁって思って困ったけど」
 シャマルはしみじみとした口調で云う。まさかこの腕に抱(いだ)ける日が来るとは想像もしていなかった。
「じゃあ、これからはもっと触れて」
 雲雀はシャマルの肩に顔を埋めた。
「10年後だとかいう未来の世界で、せんせーのこと探したけど、いなかった」
 くぐもった声で云いながら、雲雀はシャマルのシャツの胸を掴む。
「10年経ってたからか、それとも元々あの世界の僕はせんせーと一緒にいなかったのかな」
「探してくれてありがとう。そうだなぁ、いくつもある選択肢のなかには、そういう世界もあるかも知れないな。でも、今ここにいる俺とお前はこの先もずっと一緒だ。だろ?」
 シャマルはぺたりと張り付いてきた痩身を囲う。雲雀はこくんと頷いた。

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