わかれ際のキスは軽めに




 シャマルの部屋に泊まった翌朝、雲雀はシャマルよりも先に出ていく。風紀委員長として仕事熱心な雲雀の朝は早いのだ。勿論、まさか一緒に登校するわけにはいかないが、もう少しゆっくりしていってくれてもいいんじゃないかと、シャマルは思う。
「今日はいつにも増して早くない?」
 すでに身支度を整えた雲雀に、シャマルは名残を惜しむように云う。窓の外はまだ薄暗さが残っている。
「服装及び持ち物検査があるからね」
「その年でワーカーホリックなんて、過労死しちゃうよ」
 雲雀は学生の本分であるはずの授業にはろくに出ないのに、風紀と学校をこよなく愛している。肌を許し身体を預けてくれるようになっても、優先順位は変わらない。
「貴方が怠けすぎなんだよ」
 雲雀は唇を尖らせて素っ気なく返した。
「え〜。俺、ちゃんとお仕事してるぜ〜」
「患者の選り好みするのは、ちゃんとって云わない」
「選り好みなんてしてないぞ。俺はヒバリちゃんと女の子専門なの」
 しゃあしゃあと云ってのける養護教諭を、雲雀はぎろりと睨んだ。ここで得物を繰り出しても躱されると解っているから余計に腹立たしい。
「俺としては小鳥ちゃん専属がいいんだけどね〜」
「変な呼び方しないで」
「可愛い呼び方だよ。ヒバリにぴったり」
 シャマルは、縦皺の寄った雲雀の眉間にちゅっと口づけた。雲雀はますますむくれる。シャマルはますます雲雀が可愛くて尖った唇にも口づける。顔を背けようとした雲雀の丸い後頭部に手を添え、薄く開いた唇の隙間に舌を差し入れた。
「…ゃ」
 細い手がシャマルの胸を押す。シャマルはすぐに離れた。怒らせてしまったかと思ったが、違った。雲雀は下唇を噛み、細い眉をきゅっと寄せている。シャマルは眉尻を下げ、そっと朱唇に触れた。ゆっくりと解かれる。
「怒ってる?」
 違うと承知で伺うように問えば、案の定雲雀はゆるりとかぶりを振った。
「さっきみたいなキスすると体温上がったり、くらくらしたりして、離れたくなくなるから嫌(や)だ」
 シャマルの肩に、こつんと小さな頭が乗せられる。シャマルはあやすように花車な肩を軽く叩いた。シャマルの方がくらくらしそうだった。
「御免ね。でも、うん、離したくはないなぁ」
 ぎゅっと痩身を抱きすくめる。
「遅刻する」
「まだ早いよ」
「早くない」
 雲雀はちらりと時計に視線をやった。シャマルは力を緩め、さらりと黒髪を撫でた。
「じゃあ、帰りも早く帰ってきてね〜」
「…見回りが終わったらね」
 不承不承といったような返答だが、実際には早めに切り上げて帰ってきてくれるとシャマルには解る。けれど、にやけたら機嫌を損ねることも解っているから、気を引き締めて柔らかな微笑に留める。
「待ってるよ」
 シャマルはもう一度黒髪に指を滑らせて白い額と頬に唇を寄せ、最後に朱唇に触れるだけの口づけを落とした。

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