little bird





 開けていた窓から飛んできた物体を叩き割った、と思った瞬間、雲雀は白煙に包まれた。それが晴れたときには、周囲は見知らぬ景色に変わっていた。階下から騒がしい声が聞こえていたから、赤ん坊の知り合いらしい牛柄の子どものせいだろう。
 雲雀が座っていたのは上質な革張りのソファで、目の前にはローテーブルが置かれている。室内は広く、テーブルセットは一組ではなかったが、他に人影はない。開け放されたままのドアの外にも、人の気配はなかった。カーテンの隙間から垣間見えるのは、どうやらバルコニーのようだ。外の景色を見ようと立ち上がったところで、耳が幽かな足音を捉えた。こちらに向かってくる。急いでいるだけで険のある音ではなかったが、念のためトンファーをセットする。
「ごめん、遅くなって、」
 臨戦態勢の雲雀の前に現れたのは、白いスーツ姿の男だった。約束に遅れたらしい男は、謝ったあと目を丸くした。雲雀は、見知った男によく似た風貌を凝視する。
「ランボのバズーカに当たった? その制服、中学だよな。ここは十年後だよ」
 小鳥ちゃん、と甘い低音に呼ばれて、雲雀はシャマルを睨みつけた。シャマルは眉をハの字に下げ、トンファーを握ったままの雲雀の手に触れた。雲雀はシャマルを振り払おうとしたが、逆に抱き込まれてしまった。
慣れない香水の匂いが鼻先を掠める。煙草は注意すれば嗅ぎ分けられる程度にほのかに香るだけだ。
「離せ」
 慣れた気配と慣れない匂いに、雲雀は居心地の悪さを覚える。
「えー。やっと喋ってくれたと思ったら、それ〜?」
 シャマルは不服そうに云って痩身を少し離した。
「十年前って、小さかったんだな。ほんとに"小鳥"ちゃんだ」
 小さな頭を撫でるとまた睨まれたが、シャマルは気にせず長い前髪を掻きやって額に口づけた。
「貴方、まさか十年経っても小鳥ちゃんとか呼んでるの」
「何年経っても、ヒバリは俺の可愛い小鳥ちゃんだよ」
 眼差しはきついまま、雲雀はトンファーをしまった手を白いスーツに伸べた。だらしのないネクタイは変わらないようだ。くいと引っ張ると、シャマルは柔らかく笑んで雲雀に顔を近づけた。ほんの一瞬唇が触れ合う。
「そろそろ五分経っちゃうかな」
 シャマルの呟きに雲雀がうなずきかけたところで、タイムリミットが訪れた。

「お帰り〜小鳥ちゃん」
 白煙が晴れるやいなや、雲雀は白衣の男に抱きしめられた。香水と煙草の混じった匂いに包まれる。十年後の雲雀は応接室から保健室へと移動したようだ。
「それ、止めてよ。小鳥ちゃんじゃない」
 雲雀はトンファーでシャマルの胸をついた。シャマルは一旦両手を上げ、それからトンファーの先を掴んだ。
「可愛いじゃん。ヒバリにぴったりだよ。俺の可愛い小鳥ちゃん」
「貴方、十年経って見た目は今よりもっとオジサンになるけど、中身は全然変わらない」
「会ったの? 今よりもっとってヒドいんじゃない? まあ、うん、オジサンだからそんな劇的な変化なんてないよ」
 シャマルはにこにこしながら、ついさっき五分足らずの間だけともに過ごした雲雀よりも低い位置にある頭を撫でた。
「ヒバリが好きで、可愛くて仕方ないんだよ」
 滑らかな頬を撫で、見上げてくる雲雀のつんと尖った唇に口づけを落とす。雲雀は白衣を掴み、シャマルの肩に頭を預けた。
「可愛いとか余計だよ。でも、いいよ、変わらなくても」
「変わらないよ。きっと、もっとヒバリを好きになってると思うけどね」







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[mokuji]



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