暑さ寒さも
「寒い」
一言それだけ云って、雲雀は玄関まで迎えに出てきたシャマルに身体を寄せた。シャマルは一瞬目を丸くし、すぐに痩身を抱き締めた。
日本では暑さ寒さも彼岸までといって、秋分の日あたりを境に気候が夏から秋へと移り変わっていく。それでも例年なら、この時期はまだ残暑といっても差し支えないような陽気だが、今年は涼しくなるのが早い。先週くらいまで蒸し暑かったのが、今は朝晩などは肌寒いほどだ。冬でも平然と薄着で出歩く雲雀だが、少々忙しないような温度変化にはついていけないのだろう。シャマルは小さな頭を撫で、優しく背をさする。
「先生があっためてあげるよ〜」
痩身を抱え上げ、リビングのソファまで運んだ。
「何か食べる?」
「──いらない。あっためてくれるんじゃないの」
ソファに下ろされた雲雀は、不服そうにシャマルのシャツを掴む。包み込んできた体温が心地よくて、離れてほしくなかった。唇を尖らせて見上げると、シャマルの顔が近づいてきた。唇が触れ合う。もっと近づいてほしくて手を伸ばす。額に唇が寄せられた。
「あんまり可愛いことしないでよ」
シャマルはソファに腰を下ろし、雲雀を膝の上に乗せた。
「可愛いことなんてしてない。寒いんだもん」
雲雀はぎゅうっとシャマルにしがみつく。
「あ〜もう、云ってるそばから。そんな可愛いことされたら、あっためるだけじゃ済まなくなっちゃうぞ〜」
「余計なことはしなくていいよ」
「眠いの?」
肩に乗せられた頭を撫で、シャマルは顔を斜めにする。
「眠くない。先生、あったかいね」
「眠そうだよ。ベッド行こうか」
「眠くないよ」
「ベッドの方があったまるよ」
「うん」
シャマルは一旦雲雀を離し、すぐにまた抱き上げた。やはり眠気に誘われていたのだろう、ベッドに入ると雲雀はあっという間に眠りに落ちてしまった。しがみついたままの体勢に頬を緩め、黒髪に口づけてシャマルも目を閉じた。
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