星よりひそかに





「いらっしゃ〜い、小鳥ちゃん」
 ドアを開けるなり、甘ったるい声が雲雀を出迎えた。
「雨、降られなかった?」
「降ってないよ」
「それなら良かった」
 雲雀は素っ気なく答えたが、シャマルはにこりと笑った。
「でもこの分じゃ天の川は見えそうもないな」
「梅雨時だからね」
 少々残念そうなシャマルに、雲雀はまた素っ気なく返す。
「星空の下で小鳥ちゃんと愛を語らおうと思ってたのに〜」
「今日は蒸し暑いけど、寒いこと云わなくていいよ」
「寒いことなんて云ってないぞ〜。一年に一度のロマンティックな日なんだから、熱く愛を語らなきゃ」
「──七夕は一度だけどね。他の時にも同じこと云うじゃない。貴方は牽牛織女が引き離された理由を考えてみるといいよ」
 雲雀は呆れたようにシャマルを見上げる。
「俺は仕事より小鳥ちゃんを愛してるけど、至って真面目にお仕事もしてるだろ。今日は天の川より星の数よりもっと小鳥ちゃんを愛してるよって云う日」
 シャマルはしゃあしゃあと云ってのけ、柔らかく笑んで雲雀の頬に手の平を添えたが、すぐに眉を曇らせた。
「熱いよ」
「真夏日手前だったからね」
「そうじゃなくて、体温高いよ」
 首を傾げる雲雀の長い前髪を掻き上げて額に触れる。雲雀は不思議そうに黒瞳を瞬かせた。
「頭痛いとか、喉痛いとかない?」
「ないよ。天気のせいでちょっと頭重い気はするけど」
 ほっそりした手がシャマルの額に伸ばされる。
「手も熱い」
「先生が冷たいんだよ」
「俺は平熱だよ」
「先生に移したら下がるかな」
 雲雀はシャマルを引き寄せてこつんと額をつけた。
「じゃあ、もっと触れて」
 シャマルは痩身を緩く囲う。空調の行き届いた室内は涼しくさらりとしているので、雲雀が嫌がる素振りを見せることはない。雲雀は小さく笑ってシャマルの頬に頬をすり寄せた。無精髭が当たってちくちくする。唇に笑みを乗せたまま、シャマルのそれに触れあわせた。シャマルは軽く目を瞠って、それから細めた。シャマルからも、触れるだけの口づけをする。
「天の川も見えないから、今日は早めに休もう」
 シャマルが痩身を抱き上げると、雲雀はぎゅっとシャマルの首にしがみついた。
「見えなくても、空には星あるよ」
「そうだね」
 見えない星よりももっと、見えない日などないほどずっと愛してるよと囁いて、シャマルはほんのり上気した白い頬に唇を寄せた。

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