番外



 シャマルより先に目覚めた雲雀は、ナイトテーブルの時計に目をやった。まだ起きるには早い。シャマルの腕のなかでもぞもぞと身体を動かしていると、ぐいっと抱き寄せられた。鼓動が速まる。
 熱に浮かされるように、何度もシャマルを呼んだ。その度、否それ以上にシャマルからも呼ばれ、愛していると囁かれた。あのパーティの夜には出来なかったことだ。互いに気づいていないふうを装っていたから、口を衝いて出そうになる度に堪えていた。あの時は、シャマルに抱かれるだけでいいと思っていた。ただ名を呼び、呼ばれるだけであんなにも熱が上がるなんて思わなかった。
 そしてあの夜と違って、こうして目が覚めても出て行く必要はない。夜が明けても、ここにいていいのだ。
 雲雀はシャマルの肩を枕に、ぴたりと身体を寄り添わせて目を閉じた。

 目が覚めると、シャマルは半身にかかる重さに眉を顰めた。が、すぐに原因に気づき、今度は頬を緩める。雲雀が、しがみつくようにぴったりとくっついて眠っていた。そっと黒髪を撫でる。
 もっと早く想いを告げていれば良かったと思う。そうすれば雲雀に辛い思いをさせずに済んだ。
 小さな頭を繰り返し撫でていると、痩身が震えた。ゆっくりと瞼が開く。
「ごめん。起こしちゃったね」
 シャマルが謝ると、雲雀はぼんやりとしたまま目を瞬かせた。
「──せんせー」
 ふわふわした声に呼ばれ、シャマルは雲雀の眦を撫でた。
「まだ寝てていいよ」
「──おはよう」
「お早う。起きる?」
 まだふわふわした雲雀に問いかけると、こくんと頷いた。シャマルはベッドの上に起き上がり、それから雲雀を抱き起こした。雲雀はそのままシャマルに凭れかかる。
「先生」
 細い腕が、シャマルの首の後ろへと回された。シャマルも雲雀を包むように背(せな)へと腕を回す。互いを確かめるように、暫しただ無言で抱き締めあう。
「まだ、夢みたい」
「俺も。起きたら消えちゃってるんじゃないかって思ってた」
 シャマルはさらりと雲雀の髪を撫で、頬に手の平を添わせた。見つめ合って、唇を重ねる。
「夢じゃなくて嬉しいよ」
 愛してるよ、と囁いて、シャマルは再び朱唇に口づけた。







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