綺麗な桜色の風がふわふわ舞って。目の前を始まりを告げる小さな花びらが横切った。
後ろから聞こえてきた声に振り向けば私の大切な人達がそこにいて、私の名を呼んでた。
「万里」って。
軽い衝撃を頭に受け、まぶたを開けて周りを見渡せば、足元にくまのぬいぐるみが落ちていた。
タンスの上から落ちてきたんだろう。久しぶりに見た、小さい頃の親友はふたつのにおいを持っていた。
長い年月、放置されたことによって染み付いたほこりっぽいにおいと
あの頃、私がつけてしまった悲しいにおい。
けど、この子は私の親友であり続けていてくれたから、この時に落ちてきてくれたのかな。
なんだか嬉しくなって力のかぎりぎゅっと、そのくまのぬいぐるみを抱きしめた。
「あらあら、もう寂しいのかしら?万里は」
「院長先生」
言葉を投げたのは、開けていたドアから部屋に入ってきた院長先生。
「寂しくないって言えば嘘になります」
だけど、と言葉をつなげて私は笑った。
「明日からの三年間で私は、大切な人達をたくさん見つけられるから」
あの夢はきっと予知夢。いつも見る夢とは違う、どこか現実味が混じった未来の映像。
少し先かも遠い先かも分からないけど、確実に私の前をはしっている世界の切れ端。
明日は晴れるかなぁ。
なんて思いながら私は
星月学園に送る段ボールに、抱いていたかつての親友をしまい込んだ。
昨日があったから、今日があるんだ
(今日があるから、明日もあるんだよね)