*夏休み
*ザンニさんとベルリオーズ
「ザンニ」
真夏の陽光がこれでもかとひらめくプール際で、これからの為と準備運動をしていた藍髪のザンニが振り返り、こちらへとやってくる背の高い人影を認める。
「ベルリオーズ…来たのか」
意外とでも言うように少しばかり大袈裟に、けれども確かに嬉しそうに言って、ベルリオーズのところへ駆け寄る。
「たまには運動もしないとな」
「良く言う」
ザンニが笑って言うように、ベルリオーズは背も高く、美丈夫と言えるほどの容姿と体躯の持ち主だった。それに勉強のほうも出来ると言うのに、なぜ彼女の一人もいないのかとザンニはいつも呆れて見せていた。
「しかし…相変わらず無駄に広いな、ここのプールは」
準備運動を終え、腰に手を当ててベルリオーズがぐるりを見回す。それにつられてあたりを眺めたザンニも、確かに、と改めてこの第三プールの広さを確認したようだった。
何もかもの規模が巨大なこの学園は、明らかにおかしいサイズの施設や部屋が数多く存在している。それらの巨大な施設はACのサイズにあわせて作られているからだとか、来たるべき時に備えてだとか噂も様々だったが、普段から目にする大きさがそれなものだから、皆が皆、殆ど順応してしまってそれが普通になってしまっている。
「まあ、広いのは悪いことじゃあない。さあ、泳ぐぞ!」
屈伸運動を終えて、ザンニが勢い良くプールに飛び込む。水飛沫が、夏の陽光と塩素のにおいをまとって高く立ち上がる。
壁を蹴って進み出した、まるで魚のようだと評されるザンニの泳ぎは昨夏と変わらず見とれるほど洗練されていて、ベルリオーズは友人の泳ぎっぷりに感心して目を細めた。
「…では、私も行くとするか」
ザンニを真似てか、この暑さのせいか、ベルリオーズも普段ならしない飛び込みをする。助走をつけて、固いプールサイドを蹴飛ばし、飛ぶ。
瞬間世界が青く染まり、ああ、夏が来たのだということが今更のように思われた。
そうだ、夏が来たのだ。
学生の良いところは、こうやって季節を楽しめることだと、改めて黒髪の青年は夏に青く染まりながら友人を追い掛け、しみじみと思うのだった。
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