4主とジョッシュ
オッサン同士談話
「ああ、それで?」
「そのMTがまた特別にデカイやつでなあ、解体するのにぁ骨が折れたね。いやあ、流石に死ぬかと思ったよ」
そいつはさぞ大変だったろうなと、白髪(はくはつ)の男が楽しそうに笑った。
人の気配などとうに無くなって久しい、ここは国家解体戦争後早くに廃棄されたコロニー。
良く晴れた日だった。男が二人、陽の当たる広場で談笑していた。
一人は黒い短髪で、煙草の紫煙をくゆらせ、一人は緩くウェーブ掛かった灰混じりの白髪をした男だった。どちらも共に楽しそうな笑みを浮かべ、彼らは旧知の仲であるように思わせる雰囲気があった。
「あんなもんを一人に任せようだなんて、まあ、たまらんもんだな」
灰皿に煙草を叩き、黒髪の男が肩を竦める。
「君がそれだけ優秀だと言う事さ。だが優秀さと言うものは、何故だか要らないものまで引き寄せるようだがな」
白髪の男が目を細めて黒髪の男を見る。
年相応に見える、目尻に寄った皺は、けれどもどこか少年のような幼さを見せるような気もした。
「…は、たまらんねえ」
黒髪の男がやれやれとばかりに苦笑し、白髪の男もそれにつられたように口角を上げた。
「ずっとこうなら、円満なんだがな」
「もう少し違う時代に産まれたかった、か。言ったところで、何も始まらんさ」
言って、白髪の男が立ち上がる。
「何ンだ、もう行くのか。折角の"良い日"だ、もう少しゆっくりしても罰は当たるまいよ?」
灰皿に煙草を押し潰し、伸びをして黒髪の男も立ち上がる。
「あんたは、頑張り過ぎるくらい頑張ってるんだからな」
「君が知っていてくれるのなら、私はそれで十分だと思うよ」
「変わらねェな、まだ死に急いで」
「はは、そっくりそのまま返そう」
白髪の男が穏やかに笑う。
この男がこんなふうに柔らかく笑う時は、自分がどうこう何をしようが一度も考えを改めた事の無いことを、黒髪の男はよく知っていた。だから、今更引き止めるなんて野暮な事はしない。したくはなかった。
「――ジョッシュ、」
手を振り、遠ざかりかけていた背に呼び掛ける。
ジョシュア・O・ブライエンが肩越しに振り返る。ウェーブの掛かった白髪が揺れるのが、陽を含んで酷く綺麗に見えた。
「また、いつでもいい。また、"こうしよう"な。待ってるからなァ」
親指を立て、"了解"と彼が言う。
またいつかな、と。
街の果てに、白い閃光が弾ける。
それを見送って、黒髪の男がまたゆるく笑った。彼もきっと、同じ気持ちでいてくれと、どこか片隅で夢想する。そうあってくれたら、きっと幸せだと。