我慢しなくていいんだよ
バカでアホで変態。いつもニヤニヤ笑ってばかり
なのに頼りにされてて、人の気も知らずに破天荒にぶちかます
そんなアイツが今日は違かったんだ
「……………」
夕陽で黒く霞む葉の陰り。樹木や草花の茂る少し家から離れた山の中。塑琉奈は背を向けたまま小さく墓標を作る。
俺はそれを後ろから見つめ、静かに過ぎる空間の中
、小さく息を吐いた
「…そろそろ行くぞ…」
「……うん、わかった」
墓標から顔を俺に向けて歩み寄り、
塑琉奈は精一杯の笑顔を見せる
それが余計に痛々しくて…
「………」
「………」
ゆっくりとした足取りで山道を下る中
塑琉奈は後ろ髪引かれているのか
何度も何度も、墓標のある先を見返す
俺はそれを見る気にはなれなくて
ずっと前を見据えるしかなかった
それは今日の夕陽が
顔を出す少し前の出来事だ
俺と塑琉奈が可愛がっていた野良猫がいつも通り、俺たちに会うつもりだっただろう。公園前の道路を横断しようとした矢先、車に轢かれてしまった
はじめにそれを発見したのは塑琉奈で
俺に『死んじゃった』っと
切なく笑みを溢してから
誰もが見るにも触れるにも耐えない
死骸を拾い、二人で墓標を作りに
この山道の中をきたんだ
「キョウヤ…」
「…なんだ?」
「おんぶ」
掠れ消えそうな声で
そう俺の背に言った塑琉奈
普段ならその言葉に文句を並べるが、今回は塑琉奈の方を見ずにゆっくり屈んでやる
すると弱々しく俺の首に腕をまわし、ふわり、と軽い塑琉奈の体重が俺の背に掛かり
「…ありがと」
そのまま塑琉奈を背に抱えて静かに立ち上がれば、塑琉奈はまた、掠れるような声で俺の耳元でお礼を言った
「………」
その後は互いに会話はなく、ただただ、俺の歩む足と
踏み草音だけが山道に響くだけ。
俺の肩に擦りつく塑琉奈。見えなくても表情は予測できた
「もう…しょうがないって…
判ってる筈なのにね…」
震える声で塑琉奈はふとそう言い
ギュウッと俺の首に巻かれた腕が強くなる
「……どうしても、
死に直面したら…弱いみたい」
「…………」
塑琉奈は誰にでも笑顔で笑わせて自分勝手で、でも憎めなくて。みんな、きっと気楽で考えないタイプだと言うだろう
俺もそうだと思っていた
けど、今、俺の背にいる塑琉奈は
「俺って…まだ弱いね…」
優しく猫に話し掛けて、最後まで愛情を降り注いで
。いなくなった悲しみを溢れ出させたい感情を押し殺して我慢する。
普通の人間と、俺たちと同じだったんだ
「泣けよ」
「…へ…?」
今まで塑琉奈を勘違いしてた俺。…けど、弱音吐いた塑琉奈が見れて不謹慎にも嬉しさが込み上げる
「顔、見れねぇから
泣くなら今のうちだぜ?」
もっと、もっと
感情を出していいんだ
もっと、もっと…
俺に甘えてくれていいんだ
「…ぅ…ぐっ…うわぁああ…!!!」
小さく嗚咽を漏らした後。俺の背で大きく泣き声と共に、俺の首筋からツゥーっと流れてゆく塑琉奈の涙の滝
初めての塑琉奈の弱い姿
「……でっけぇ赤ん坊」
俺はそれを心地よく聞きながら
小さく笑ってやった
我慢しなくていいんだよ
全て、俺が受け止めてやるから
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