盾神短編 | ナノ


醜い自分にサヨナラを

獅子は変わった。

はじめは人々を貪り喰うしか脳がなかった獅子が、天馬と戦い、目指すものができ、それを延々と走りゆく

そうして獅子の中で俺の存在は消えていった


「……」



俺は真っ黒で何も見えないこの場所が好き

街灯も機械音もない。街から少し離れた海辺。黒く、黒く俺の感情を塗り潰し、何もなくリセット出来るから。

同時に、ここに来るのは、醜い感情に自分が押し潰されたからでもある


「……」


ツツッと冷たい砂に触れ、ゆっくりと指で円を描く。その中にハートを加え、それを擦り、形を歪ませた


「あ……」


その途端、目の前に足が見えて見上げれば、あの獅子の姿。


「…なにやってんだ」

「お前には関係ない」

「女が一人でこんな真夜中に海にいるはあぶねぇだろ」

「誰も拐いになんか来ないさ」


彼を見て、俺はすかさず描いた絵を手でかき消す。
彼は不思議そうに俺を見下ろしたまま


「…なんか言いたげだな」

「別に」

「だったらさっさと帰れ」

「それは俺の勝手だろ」


彼はその場に腰を下ろし、俺と同じように真っ黒で
波音しかしない海と空を見上げた。


「……」

「……」


シンッと静かなった、俺と彼がいる今の世界。俺には空と海と彼が、彼には空と海が。そう、俺は映ってはいないんだろう

また醜い感情が溢れる。

ああ…、これを消したくて此処へ来たのに、本当、嫌な奴だこいつは


「……」


また別の場所でも探そう。
そう思い、立ち上がり彼に背を向ければ、背中越しに彼の声


「逃げんなよ」

「…誰が?」

「お前しかいねぇだろ」


背中越しに嫌々応対すれば、また歩を進める俺。それも一歩目だけで、彼に中断されてしまう。


「…離せよ」

「………」

「おい…」


彼に掴まれた腕に力がふとこもる。

睨みを効かせて彼を見れば、なぜか寂しい顔をしていて。ぐるぐる、ぐるぐる、また醜い感情が膨れ上がる


「…悪い」


彼がポツリとそう言ったのに、俺は心底驚いて、それにより醜い感情が薄れる。謝罪の言葉を口にしても彼は手を離さない

とゆうことは、掴んで悪いって意図ではないらしい


「なんだいきなり…」

「…本当は知ってた
お前がいつも…此処に来ること」


視線を下に落とし、申し訳ないように小さく言葉を吐く彼。まさかの彼の言葉は、またも俺を困惑へと落とす


「お前が俺を嫌いなのは知ってる
俺がそうさせちまったからな…」

「………」

「だけど、忘れないでくれ」


空と海の世界に彼の声は低く透き通り、俺の頭の中で反響する。彼は俺に澄んだ水晶のような瞳を映す


「俺はお前を、片時も忘れたことなんてないから」


そう言った彼の瞳には、まるで荒ぶる獅子が宿したよう。俺はそれに今までの醜い感情を引き裂かれた
。それと同時に溢れた想いが俺の目頭が熱くなる


「……っあ」


溢れ出た感情の如くつうっと涙が頬を伝い、それを彼は優しく指ですくいあげてくれる


謝るのは俺のほうだ

勝手に自らの存在を消して
勝手に感情を焦燥させて

彼のことを何一つ考えてなかった


彼のことを忘れていたのは
…俺だったんだ


「キョウヤ……」


震える声で彼の名前を呼ぶ。彼はそれに応えるようにふわりと俺を包み込み


「塑琉奈…、好きだ
離れてても…ずっと…」


こんなにも醜い私に愛を囁いてくれる


ああ…なんて俺は馬鹿なんだろう。
今更になって彼の気持ちを理解するなんて

けどもうあんなことはしない…


「俺も…ずっとずっと…
キョウヤが好き…」


今までの醜い自分に

この真っ暗な世界に

俺はサヨナラをした


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