小説 | ナノ
アンタ最優先

寒さも少しずつ薄れ、暖かい春の兆しの気温の中
。週末は必ずと言うほど、俺の家に寄る奴が最近になって現れた


「ん、」

「ん。」


カラン、少し氷の入ったアイスコーヒーをそいつに差し出す。するとそいつも俺と同じ一声で返事をしながら、アイスコーヒーを受け取って一息。

今ではもはや当たり前、のような光景。

少なくとも俺は、この櫂との二人だけの空間に
居心地の悪さは感じなかった

いや…櫂はどうなのか知らないが…


「今日はー…」

「英語。」

「ん、了解」


コップを口から離し、少し流し目で櫂を見れば、櫂も即答で今日やる予定だろう、教科の名を出し、教材を出し始める

大体はこう。櫂の宿題の手伝いだったり、二人で勉強会って感じだな

あと櫂からのお菓子の差し入れとか少しだけ世間話。…まあ櫂本人が毎週末来るってことは、嫌ではないんじゃねぇかね、

俺は櫂の教材を開く姿がいつ見ても新鮮で、その度、俺の口角が少し上がった


「お、そうだ。友達に美味いチーズスフレ貰ったんだよ、食うか?」

「ああ」


勉強もそこそこに、じっと櫂の宿題に取り組む姿を
見ていただけで、どうやら宿題は終わってしまったらしく

少し暇を持て余し「どうしたものか」と空になったコップを見ていたら、ふとそれを思い出す


「ちょっと出してくる、あ、コーヒーも入れなきゃな」


俺と櫂の分のコップを両手に持ち、よいしょっと立ち上がろうと、腰を浮かせようとした瞬間、不意に櫂に手首を掴まれる。

反射的に櫂を見ればそこには容姿端麗かつ、切れ長な瞳が俺を見つめていて…。俺の胸が微かにドキッと音を鳴らす


「な、なんだ?」

「いや、樟葉にしてもらってばかりだからな、俺も手伝おうか?」


なんだそう言うことか…。って俺は何を期待してたんだ。ドキッてなんだよドキッて。乙女じゃねぇんだから…

内心自分でもよく判らないが残念らしく、少し深く息を吐いて自分を落ち着かせる


「気にすんな、俺が櫂にもてなしてんだからさ」

「…樟葉」

「ん?…って、うわっ!!?」


落ち着かせて櫂にニッと笑い言ってみれば、次に手首を離すどころかそのまま引っ張られ、思わず手からコップが放り出される


「っ…な!!?」


一瞬の出来事に何が何だか判らない。

只、今の俺の視界は白一色。そしてその中で鼓動を繰り返す心音が間近に聞こえる

そして夢中でぎゅうっと掴んだそれが櫂の服だったことを理解するのに数秒掛かった。


って、ことは…俺…今櫂の胸に…

ドキドキドキドキッ!!!


「樟葉」

「…………」


理解した瞬間、一気に高まる鼓動。そして顔に、体に熱が帯びて熱に浮かされる

呼ばれても見向き出来ず、その場に転がったプラスチックグラスを見つめるしか出来なかった


「樟葉」

「っ!?」


すると今度はぐいっと櫂に顔を向けさせられ、俺だけを求める櫂の瞳に、俺は目を背けることができなかった


「あまり、俺の側を離れないでくれ」


何かと思えば櫂の口からは可愛らしい子供の願い事のような、そんな言葉


「どうしたいきなり…」

「樟葉と、一秒でも一緒に俺はいたい」


真っ赤な顔もそのままに、櫂の言葉に眉をハの字にすれば、もう当の本人がイケメンだから、一つ二つの言葉だけで俺の体温は急上昇

ああ…女子が異性にときめいて落とされる気持ちってこうなのか、と俺は熱帯びる体の芯まで痛感した

そりゃ反則だぜ櫂さん…


「樟葉はどうなんだ?」


そうまた、俺しか求めない瞳で問われて体が不意にビクリと跳ねた

嫌だったらたとえ相手がイケメンでも、俺は拒否だってする。それに男同士…だし

けども俺が櫂に…その…惹かれてなかったと言えば嘘になる

現に今、いきなりこう抱き締められ、真っ直ぐ見つめられて、こんなにも心臓がオーバーヒートする位、櫂という一人の人間に吸い込まれてる

これが『好き』


「っあー!!!判ったよ!」


ガシガシッと頭を掻き、羞恥心を覚悟に今度は俺が櫂を抱き返す。

熱くて熱くてどうにかなっちまいそう


「…好きだ、天地」

「おっせぇよバーカ」


耳元に微かに笑みの含んだ、甘い櫂の声を脳に響かせ、俺は真っ赤な顔を隠すように櫂の肩に顔を埋めた



………………

櫂「(週末に樟葉の家に足を運ぶ甲斐があったな…)」

天地「(…取り敢えず、もう急には止めてくれ…心臓に悪い…)」

………………



………………その後

天地「なんだ、塑琉奈の奴か。もしもし?」

塑琉奈『なあなあなあなあなあなあ!!!お前さ!!!あのチーズスフレもう食べちゃった!!!?!?』

天地「なあ多いしうるせぇ…。あー、食べちまったけどなんで?」

塑琉奈『ん゛ん゛ぼぉわぁああマジかよぉおおん…あれめちゃくちゃ美味かったべ!?』

天地「あ、ああ美味かったけど(本当はそれどころじゃなくて味判らなかったとか言えねぇ…)」

塑琉奈『嘘つけ!実はイケメンに言い寄られてそれどころじゃなくて味判らなかったんだろ!!!知ってる!!!』

天地「………ねぇよ(こいつエスパー?)」

塑琉奈『んでイケメンにあーんされて恥ずかしくて断ったんだけどイケメンにじっと見つめられてなすがままあーんしたんだろ!!畜生羨ましいぜぶぶぶぶぶ「悪い切るぞ」ちょ!?取り敢えずチーズスフレ今度俺の分買っといてくりくり!』

天地「判った判った…、んじゃな…。」



天地「(…あいつ怖いわ……)」

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