俺は人を信じない
だから人は俺を信じない

俺は俺だけで上に登り詰める
あくまでアイツラは俺の駒だ
アイツラは俺を仲間だと言うがヘドが出る。なのに嫌とは言えない自分がいて…素直じゃない?違う,嫌いなんだ嫌いな筈なんだ……

オカシイ、アイツラがどんどん俺を攻め立てる、気味の悪い筈の生暖かい感情が溢れる

俺は俺しか信じない
仲間はいらない、いつか気味の悪いアイツラを食らい付いてやる

壊して壊して壊して…








「いいんじゃね?それで」

「は…?」



カラン、とドアについた鐘がなり
喫茶店に来客のお知らせを響かせる

それと同時に塑琉奈がスプーンくわえたまま、答えた言葉に時が止まったように滑らしていた口が止まる





ことの始まりはつい一時間前

イナズマジャパンの練習に
御託は並べ、プレーを生かせない、自我が強いだけのアイツラへ苛立ちはピークに達していた

練習を終えた後、直ぐに自室に戻り、
自分の感情を押さえようとベッドに腰を下ろすも、外から聞こえる
自主練の掛け声、廊下の話声に、普段なら全く気にしない筈が今回は神経集中

苛立ちが募っていった

仕方なくジャパンエリアにでも
繰り出そうと、部屋から出ればそこに一服吹かしてた塑琉奈がいて





『今日ピリピリしてんなー、あきおたん』

『あ?』

『そうだ、これから甘いもん食いに行かね?』





『苛々には糖分必須だぞー』っとニコチン摂取している塑琉奈に
ふわり、苦い煙と一緒に苛立ちが少し薄れた気がして、

俺は今、喫茶店で
バナナタルトを半分食した状態で
今に至る





「だから、」



塑琉奈は口にくわえたスプーンを手に戻し、ゆらゆら揺らす



「嫌なら嫌、壊すなら壊す、それでいいじゃん。あきおたんは考えすぎだよ」



今までにそんな言葉は言われたことはない『ダメだ、いけない、向き合え、ちゃんとやれ』のごり押し

初めて聞いたその言葉は
俺に大きなダメージを負わせる



「…はっ、じゃあ好き勝手やれってか?」

「おうよ」



プツン、プツンと
胸の奥にある鎖だらけの世界が千切れて、少しずつ解放されていって…



「あっ…、でも障害は付き物だから
それはしょうがねぇからな?」



付け足した後に気を使う素振りもなく、チョコパフェに手を出しながら、楽しそうに笑う塑琉奈



「…なんだ…気持ちわりぃ顔しやがって…」

「うん?嬉しいんだよ
あきおたんの本心が聞けて」



あーんと大きなクリームを口に運び、言った言葉に一層鎖が解ける


ああ…、またこの感じ…

嫌な筈の気味の悪い感情が溢れ出て
苛つく筈が和らいでいって
塑琉奈の行動と言動ひとつに
俺の孤高の心が壊される





「怖い?」

「…は?」



まるで俺の心中を読めてるか
ポツリと一番恐れていた言葉を
塑琉奈はなんなく飛ばして

俺は少しずつ肩が震え
バナナタルトに視線を反らす



「溶かされて、感化されてゆくのが怖い?嫌じゃないのに」

「…………」

「過去を忘れるみたいで怖い?自分が自分じゃなくなるようで怖い?」

「……やめろ…」





俺が恐れる恐怖を塑琉奈は言葉にして、俺の胸をダイレクトに突き刺さしてゆく

それに震える手でバナナタルトに
フォーク突き立て、俯いたまま
口に運ぶ瞬間、塑琉奈の柔らかな笑みが見えた





「いいんだよそれで」





そう言われた瞬間
一気に温かいぬくもり包まれたように俺の思考はブッツン。
孤高の鎖がすべて切れて薄れていく



「それを乗り越えるのも、モノにするのも、逃げるのもお前の自由
………でも忘れんなよ、」



ぽとり、
俺のフォーク先から落ちた
バナナタルトの欠片を摘まみ、
塑琉奈は口にほおり投げる





「何がどうなろうとも、変わろうとも不動明王は不動明王なんだよ」




流されるようにその手を辿り
顔を上げて見れば、額に小さな痛み



「いって……」

「一丁前に廃れてんなよー!!!
そんなんじゃ、この先で死んじまうぞ!!!」



イシシッと歯を見せて
満面の笑みが広がる塑琉奈

それと同時に、
今まで見てきた視界が一変する



「うるせ、餓鬼扱いすんじゃねー」

「俺から見たら充分餓鬼だよ」

「…はっ!今に見てろよ?」



残りのバナナタルトを
口いっぱいに押し込み、
ごくりと喉を鳴らし

今までになかった
クリアで広い道標見える視界と

錆び付く鎖が無くなり
軽くなった体を手に入れて



俺はいつもの不敵な笑みを
塑琉奈の瞳に焼き付かせてやった






エゴを吐き捨てろ
自分に喰らい、自分を創ってゆけ







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実は不動は周りにではなく
周りに流されそうで必死な自分に
気付かず苛ついていたんだと思います

タイトル下の分は

恐れた自分を喰らえ
臆病な自分を喰らえ
そして強い自分になれ

って意味を込めました



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