Clap
仕事の舞台となったビルは、先ほどまでとは違い閑散としていた。
我ながら惚れ惚れする手つきで仕事をし、まんまと逃げおおせたのだ。
そして、俺はこのビルへと戻って来た。
屋上へと降りると、物陰から出てくる小さな影。
「…おや」
「来ると思ってたぜ」
「そこまで逃走経路を読んでいたとは。恐れ入りました」
「読んだも何も、予告状の最後に書いてあったろ」
もちろん暗号で。警察の人たちはそちらの暗号までは解けなかったようだ。
…と言いながら俺も、全ての暗号を解いたわけではなかった。最後の文章だけはどうしてもわからない。悔しいので、本人にはそんなこと言わないが。
「では、始めましょうか」
「何を」
「何って、花火」
「…なんだ、あれ暗号じゃないのか」
俺が解けなかった最後の文章というのが、『一緒に花火でも見ましょう』という何とも短い文。
思わず暗号が解けなかったことがバレてしまうようなことを呟いてしまったが、キッドはそんなこと気にする様子もなく、嬉しそうに懐を探りはじめた。
「少し花火持ってきたんですよ」
「花火の音で警察戻って来ても知らないぞ」
あのときみたいに。…そういえば、あの時、こいつと初めて出会ったんだっけ。
「仕事の都合上、あのときと同じ場所では無理でしたが、そこは許してください」
何だ、こいつも初めて会った日を覚えていたからこんなことをしたのか。なぜそんな簡単なことに気づかなかったのだろうか。
今は小さな打ち上げ花火を見ながら、きっと俺たちは同じことを考えている。
おわり
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