見つめていたノートと問題集から、ちらり、と視線を机の上のケータイへと視線を移す。何の着信も告げることなく沈黙したままだったそれのスリープを解除して画面を表示させてみた所で、当然何の通知も来ていない。小さく息を吐いて、またスリープモードへ戻すと、ノートへと再度視線を落とす。

一体何度この動作を繰り返しているのだろう。少し問題を解いてはケータイを見て、と繰り返しているせいか、単純に集中出来ていないせいか、問題集を進めるペースは遅い。あと何ヵ月もすれば、いよいよ受験が本格的に始まるというのに、少しも集中出来ないのだから困る。『明日提出の数Vの課題の範囲って、どこだっけ?』なんてメールを同じクラスの菅原に送ったのは随分前のことで、彼からの返事は未だない。その返事が早く来ないかと、一人で勝手にそわそわして勉強に集中出来ないのだから、どうしようもない。
更にどうしようもないことを言えば、課題の範囲を忘れた、というのは嘘だ。本当はちゃんと先生の指示を聞いていたし、メモだって取った。今現在解いている問題が、正しくそれ。

それなのにどうしてあんなメールを送ったかと言えば、菅原とメールをするきっかけが欲しかった。ただそれだけ。
我ながらなんて浅はかなのだろうと思う。こんなことをして意味があるのかとさえ思わなくもない。それでも止められないのだ。愚かな行為と分かっていて、私は何度も繰り返す。

不意に響いた着信音に、ばっと顔を上げた。いそいそとケータイを操作して表示されたのは、課題の範囲が明記された菅原からの返信メール。『しっかりしろよ、受験生(笑)』という一言付きに、思わず口許が緩んだ。ありがとうと一緒に、『つい聞きそびれちゃった(笑)』と返す。

いつから菅原を好きだったのかなんて、はっきりとは覚えていない。たまたま運良く三年連続同じクラスになって、何度か席が近くになった時に少しずつ話すようになって。気がついたら好きになっていた。でもそれを伝える勇気なんて到底持てないまま、ずるずるとただ引き摺り続けている。
菅原の隣にいたいと、彼と同じ景色を見てみたいと、その手に触れてみたいと思わない訳じゃない。そう思う度に、そんなのは夢物語だと自分で否定する。代わりに、せめて彼の瞳に自分が映って欲しいと願う。その目に映る私はどんなでもいい。情けない奴でも、どうしようもない奴と思われても構わない。仕方ないな、そう言いながらでも私を視界に映してくれるなら、それでいい。

『つい、って(笑)この前も同じこと言ってただろ?ちゃんと授業聞けよー。』

だって、こんなやり取りをしている間は、君の意識の中に私がいるってことでしょう?
一緒にいたいなんて言わないから。どうか君の目に少しでも構わないから私を映して下さい。その為なら、浅はかと知っていたって、何度でも私は繰り返します。



繰り返す愚行
(それで君の目に僕が映るのなら、)