ぎゅう、と固く閉じられた両目は当然のことながら、俺を映すことはなくて。
ガチガチに体を縮こませている彼女は、酷く緊張しているのが一目瞭然だ。
我慢できなくなって押し倒したのは自分であるが故に、こうも目前で緊張されるとさすがに罪悪感がこみ上げる。けれどもその一方で、目の前のそんな彼女が可愛くて愛しくてたまらなくて、やっぱり触れたくてたまらないのもまた真実で。どうしたものか、と暫し内心で思案した後で、ぐ、と固く握られた彼女の両手にそっと触れてみる。たったそれだけのことでぴくりと反応する彼女に、思わずがっつきたくなる欲を飲み込む。

「怖い?」

握られたままの彼女手を開かせようと優しく自分の掌で撫でる。目を閉じたままふるふると首を振った彼女に、苦笑いを零す。

「怖いならいいよ。また今度にしよう。」

本当はそんなつもりなど毛頭ない癖に、よくもまあ簡単に言えるものだと内心で自嘲する。先程と同じように首を振った彼女の前髪に触れて、現れた額に軽く口付ける。固く閉じられた瞼、頬、鼻、と順に口付けを落とす。ようやく緩められた彼女の右手と自分の左手を絡めるように繋ぐ。

「ねえ、名前。俺のこと見て。」
「ッ、」

俺の声に、おずおずと開かれる彼女の双眸。その瞳にようやく俺が映ったことが嬉しくて、目を細める。不安気に揺れる名前の瞳を覗き込んだまま、繋いでいた手を解くと、彼女のその手を自分の胸へと導く。ドクンドクンと早いペースで刻む俺の鼓動の音が彼女に聞こえるように。

「分かる?俺も緊張してるの。」

カッコ悪いよな、と苦笑いを浮かべれば、頭を振った彼女が、今にも消え入りそうな声で、そんなことない、と呟く。俺の胸に触れていた名前の華奢な手がくしゃり、と弱々しく俺のシャツを掴んだ。

「・・・本当は、怖いの、」
「うん。」
「でも、孝支がいい。孝支なら、」

大丈夫な気がする。

小さな唇が紡いだ言葉に、眩暈がした。

彼女の表情が、声が、言葉が、俺を煽っていることなど、きっと本人は知りもしないのだろう。
たまらない、と思う。今すぐにでもどうにかしてしまいたくて、とびきり優しく甘くしたいのに、乱暴にかき抱きたくなる。痛みなど感じさせないように、どろどろに快感で溶かして気持ちよくさせてあげたいのに、その肌に噛み付いて傷をつけて、痛い程に愛したくなる。

「優しく出来なかったらごめん。」

出来るだけ優しくするつもりだけど。
でもそれは叶わないかもしれない。謝ればいいって訳じゃないことくらいは分かっている。それでも、「謝罪はした」という免罪符が欲しかった。

ああ、もう、本当にどうしてくれようか。
こんなに余裕をなくすつもりも、情けなさを晒すつもりもなかったのに。

彼女が愛しくてたまらない。



溢るるは愛か欲望か
(君に触れたいんだ)