ガチャリと鍵が開く音がして、ただいま、と響く声。少しずつ近付いてくる足音が嬉しくて、思わず緩みそうになる頬を慌てて堪える。
「ただいま。」
「おかえりー。」
キッチンで夕飯の支度をしている私の元へと顔を覗かせた孝支に、もうすぐ出来るから待ってねと笑いかければ、彼はネクタイを緩めながらフライパンの中の料理に顔を近づけた。
「お、いい匂い。」
「ね。」
つい先程味見したばかりのそれは、我ながら上出来で美味しかった。孝支も気に入ってくれるといいな、等と考えながら出来上がったばかりのフライパンの中身を、お皿に盛り付ける。その隣では孝支がシャツの袖をまくって手を洗っている。その男らしい腕が好きなことを孝支に伝えたことはあったかな、とぼんやり思う。
「これ持っていけばいい?」
「うん。お願いします。」
いけない、いけない。今は早く夕飯の支度を進めなければ。お腹を空かせているだろう孝支をあまり待たせる訳にはいかない。お腹が空いているのは私だって同じなのだから。
てきぱきと食器をテーブルに並べてくれる孝支を視界の端に映しながら、使い終わったフライパンなどの調理器具を洗っていく。食べる時には、食器以外の洗い物は残したくないのは、私なりに譲れないポイントだ。
「お待たせしました。」
先にテーブルの前に座っていた孝支に声をかけて、私も自分の定位置に腰を下ろす。そうして、二人揃って手を合わせて「いただきます」をする。ぱくりと口の中に放り込んだ今日のおかずも美味しくて、頬が綻ぶ。
「うん、うまい。」
「おいしいねえ。」
今日は会社でこんなことがあったとか、愚痴や何気ない会話をしながら二人で一緒に食べる夕飯は美味しくて(時々失敗して不味い時もあるけれど)、楽しい。外で誰かが作ってくれた美味しい物を食べるのも好きだけど、自分が作ったそこそこ美味しい物を孝支と二人で食べるのも、悪くないと思うようになったのは、孝支と一緒に住むようになってからだ。何気ない日常が幸せで、その隣に孝支がいてくれる。たったそれだけのことがこれほどまでに幸せだなんて。
「名前、ソースついてる。」
「え、どこ?」
「ここ。」
す、と伸びた孝支の手が触れて、いつの間にか私の口許についていたらしいソースを指で拭ってくれる。ぺろりと指を舐め取るその仕草も、そういえば好きだった。
「なーに笑ってるの?」
不思議そうな顔の孝支に、へらりと笑い返す。
「幸せだなあって。」
ふふふ、と零れる笑みに、孝支は少し呆れた顔をした後で、ふわりと微笑んでくれる。
「俺も幸せだよ。」
これだけのことで幸せを感じて、二人で笑いあうなんて、傍から見ればバカップル以外の何者でもないのだろう。でもバカップルだと笑われたっていい。何気ないこんな時間が私にとっては幸せで、こんな風な些細な幸せを数え切れない程たくさん積み重ねた結果が永遠だというのなら、それで構わないと思うのだ。孝支と二人で積み重ねた幸せの先で、同じように幸せと笑う私達がどうかこの先の未来にいますように。
永遠の定義とは
(それは多分小さな幸せの積み重ね)
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