彼女がいるだろう教室の中を入口から覗きこめば、会いに来た目的の彼女はすぐに俺に気がついてくれた。

「スガさん!来てくれたんですね!」

嬉しそうにぱたぱたと俺の元へと走りよって来た名字の服装に思わず目を見張った。スカート丈の短い黒のメイド服に、白いひらひらのエプロン。黒のニーハイソックスから覗く、所謂絶対領域とかいう色白な太腿が悩ましい。彼女の頭上から生える黒の猫耳はカチューシャだろうか。

「見て下さい、これ可愛くないですか?」

ご丁寧にもその場でくるりと回ってみせてくれた名字は、どうやら気に入ってるらしい。猫耳だけじゃなくてちゃんと尻尾もあるんですよ、と笑う名字は確かにいつもに増して可愛いと思う。

「うん、可愛いね。似合ってる。」

ただ、俺としてはその短いスカートから覗く足が気になって仕方ないんだけど。制服のスカートも短いけれど、制服とは違う色気のようなやらしさを感じてしまうのは、衣装故なのだろうか。彼女のこの姿を一体何人の男が見たのだろう。一瞬考えただけで、湧き上がる黒い感情に慌てて蓋をした。そんな俺に気がつく様子もなく名字は嬉しそうに、よかったと笑う。

「それでは改めまして。"御主人様、おかえりなさいませにゃん"。」

恐らく決まり文句なのだろう、笑顔でそう言った名字が思った以上に可愛くてたまらなくなって、思わず彼女の体を抱き寄せた。

「っわ!?ちょ、スガさん!?」
「このネコ、お持ち帰りで。」

腕の中でもがく名字を逃がすまいと、抱きしめる腕に力を込める。俺の胸にぎゅうぎゅうと彼女の頭を押し付ける。

「と、当店のネコは非売品ですにゃん!」
「当たり前だろ。売ってたりなんかしたら俺何するか分かんないよ。」

苦しいです、と呻きながら、まだ逃れようとじたばたする名字が可愛くて仕方ない。これ以上この可愛い生き物を他の男の目に晒すくらいなら、このまま彼女を攫ってどこかに閉じ込めてしまいたいなんて、俺はとんだ独占欲の塊だと思い知る。

「も、離して下さいよ、スガさん!」
「あれ、そこは"御主人様"じゃないの?」
「ーっ、御主人様、離して下さいにゃん!皆見てますにゃん!」

うわ。ホント何なの、この子。一体どこまで可愛いことしてくれるんだよ。

「おーい、名字ー、って。あ、スガさんじゃないスか。」

来てくれたんスね、と教室内を仕切るカーテンの向こうからやってきた田中と目があって、名字は抱きしめたままでよっ、と手を振ってみせる。

「田中ー、助けてー。」

声で田中だと分かったらしい名字が、彼女の後方へと伸ばした手をぱたぱたと振って、助けてくれとアピールする。俺の腕の中で、田中に助けを求める彼女の背中をまじまじと見つめた田中が不思議そうな顔で俺を見た。

「…何してんスか、スガさん。」
「うちのマネージャーがあんまり可愛かったからさ。」

にこりと微笑んでみせれば、田中ははあ、と曖昧に頷いた。

「つーわけで田中、名字ちょっと借りていい?」
「いいッスよ。ちょうどソイツ今から休憩って呼びに来たとこなんで。」
「ちょっ、田中!?」
「サンキュー。さ、行くぞ、名字ー。」
「っわわ、スガさん!?」

名字を腕の中から解放すると、彼女の腕を引いて教室を出ていく。俺に引かれるままぱたぱたと歩く名字の足音を聞きながら、これから何処へ連れ込もうか考えを巡らせる。どこか空き教室か、部室か。部室の方が文化祭真っ只中の校舎から離れている分、鍵もかけられるし得策か。

「スガさん、どこ行くんですか!?」
「名字と二人きりになれるトコ。」

折角そんな可愛い格好してるなら、とことん楽しませてよ。そうして、俺だけのものって独占させて。その可愛い声も、顔も、髪も、服も全部独り占めさせてよ。

その可愛い姿で俺だけを強請ってよ。





Let me have you all to myself
(君が可愛くて仕方ないんだ、)