ふと無性にアイスが食べたくなって向かったコンビニ。その自動ドアの前に立ってどれだけ時間が経ったのだろう。ドアの向こうの店内は、夜だというのに相変わらず煌々と明るいのに、そのドアは一向に開く気配がない。飛び跳ねてみたり、左右に体を揺らしたりしてみても開かない。それでも懲りずにまた飛び跳ねたりしている時だった。

「何してるの?」

突然背後から声をかけられて、びくりと体が跳ねる。恐る恐る振り返れば、私の目線よりもずっと高い場所にある見覚えのある顔。

「つきっ、月島君!?」
「それ、故障中って書いてあるけど。」
「えッ!?」

酷く冷静な声で指摘されて、彼の指がさすその先を見てみれば「只今自動ドア故障中」の張り紙。

「ああッ!本当だ!」

ぷ、と月島君が吹き出す。どうりで飛んでも跳ねてもドアは開かない訳だ。気付かずにずっと自動ドアの前でじたばたしていた自分が恥ずかしい。それを月島君に見られていたことも恥ずかしい。顔に熱が集中したように熱い。穴があったら入りたいというのは、きっとこういう心境のことをいうのだろう。

「そこにいられると邪魔なんだけど。」
「ご、ごめん!」

慌ててドアの正面から横にずれれば、月島君がガラガラとドアを手動で開ける。その後に続いて店内へと入り、今度は私がドアを閉めた。月島君はといえば、既に私への興味はなくしたように、さっさと店内へと消えてしまった。

早く目的のものを買ってすぐに帰ろう。これ以上、月島君に失態を見られたくない。というか、先程の自分が恥ずかしすぎて、あわせる顔がない。

アイスのコーナーへ向かって、中を覗きこむ。どれにしようかな。安定のガリガリ君にしようか。いやでも、バニラもいいな。新商品と謳っているヤツも気になるし、どうしよう。

「こんな時間にアイスなんて食べたら太るよ。」

またしても背後から聞こえた声に振り向く。声の張本人、月島君はちらりと私を見てニヤリと意地悪そうな笑みをよこすと、すたすたとレジへと向かった。むっとして、ガリガリ君を引っ掴んで月島君の隣に立つ。
彼のものと一緒にレジ台へ置く。

「一緒でお願いします。」

店員さんにそう告げれば、隣に立った月島君がはあ?と声を上げた。

「奢る。だからさっきのことは黙ってて。」

小銭を出しながら言うと、月島君はふうん、と納得したように頷いた。その顔はきっと意地悪くニヤニヤしているのだろう。ムカつくから見ないけれど。

「口止めってワケ。」
「そういうこと。」

会計を終えると、自分の分のガリガリ君だけをコンビニの袋から抜き取って、袋を月島君に差し出す。ドーモ、と彼が受け取ったのを確認して、足早に月島君の横を通り過ぎる。本来自動で開く筈のドアを手動で開けて外に出る。

「待ちなよ。」

呼び止められて、まだ何かあるのかと立ち止まれば、今度は振り返る前に月島君が私の一歩前に立った。その背中を黙って見つめていると、くるりと彼が振り向く。

「家、どこ?」
「え?」

尋ねられた意図が分からなくて聞き返す。月島君は呆れたように息を吐き出した。

「送ってくって言ってるんだよ。遅いし、君意外と抜けてるみたいだから。」

壊れてることにも気付かないくらいだしね。と付け足して笑った月島の性格はよく分からない。優しいのか意地悪なのか、どちらかにしてもらえないだろうか。

「いい。すぐ近くだし。」
「人の厚意はありがたく受け取った方がいいんじゃない?可愛げがなく見えるよ。」
「別に月島君に可愛いなんて思われなくてもいいよ。」

我ながら本当に可愛げがないなと思いながらも歩き出す。本当に可愛くないね、君と呟いた月島君もゆっくりと歩く。普通に歩けば私よりずっと速い筈なのに、私を追い越すこともなく隣を歩く月島君は、どうやら歩幅を合わせてくれているらしい。冗談やからかいなんかじゃなく、本当に送ってくれるつもりなんだ、と気付いて少し擽ったい気持ちになる。

たまたま同じクラスで、隣の席になって、時折少し話をするだけの、特別でもなければ何てことない名前もない関係。
その筈だったのに。
こんな風に不意打ちで優しさに触れてしまったら、何かが変わってしまいそうじゃない。





まだ恋だなんて呼べないけれど
(いつか変わるような気がするの)